やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

巨大海洋保護区も海軍もマグロを守れないー守ったのは人口2.8万人の壱岐の漁師さん

ステテコおじさんのトラウマもあって漁業問題は避けて来たが、海洋問題を扱うようになっていよいよ向き合う事となった。

資源枯渇の対応策、IUU対応策も色々みてきたが、魚の事を知れば知るほどPEWがやっているようなメガサンクチュアリーでは、少なくともマグロは守れない。それに海軍は魚の事知らないので、基本的に違法操業に当てるのは無理がある。豪州海軍の事だ。ちなみに2008年20年以上継続したPPBPは俺たちの仕事じゃあない、と政府に手紙を出したのは豪州海軍だった。豪州海軍の判断は正しかったのだ。

ではどのようにマグロを守るか。海上警備はその一つだが、国際機関ー 地域漁業管理機関(RFMO)で漁獲量等の取り決めをして管理して行こうという動きがある。

昨日大きな決定がされた。

全米熱帯まぐろ類委員会(IATTC)が2015年の漁獲枠を14年より約4割少ない3300トンで合意。日本案の5割より1割増えた結果となったが、大きな前進ではなかろうか?

同じく日本の主導で、この9月にもWCPFCで50%カットの合意を導いている。

そして世界にの規制を呼びかけるからには、マグロの最大消費国である日本が襟をたださなければならない。7月には水産庁が主催する「資源管理のあり方検討会」でクロマグロ未成魚の漁獲上限を決めた。

この動きを後押ししたのが人口2.8万人の壱岐の漁師さんたちである。「壱岐市マグロ資源を考える会」の動きを今年始めから見守ってきた自分としては嬉しい成果だ。壱岐の漁師さん達の動きが全国レベルになって、今回のIATTCの決定に繋がった、とも言えよう。

漁師にとって漁獲を自ら押さえる事は死活問題。でもこのままにしておけば、魚がいなくなり、もっと厳しくなる。漁師保護から、資源保護の動きに、日本の水産行政は舵取りをしたように見える。

マグロを守る方法、後色々ある。

トレーサビリティーの確立

寄港国の取り組み強化

市場のチェック 等々。

(詳細は「公海から世界を豊かに ~保全と利用のガバナンス~」をご参照ください。)

結論

巨大海洋保護区も海軍もマグロを守れない。守れるのは漁師さんの良識と見識。そしてマグロのほとんどを消費する日本の消費者の責任は大きい。

壱岐市マグロ資源を考える会」の設立の趣旨が心に染みる。

下記コピーさせていただきます。

海洋国家日本における離島の意義は重い。

そこに島が存在することにより、国益は広がりを有する。

国家における離島の意義は島に生き続ける人々によって成り立つ部分が多い。

ただ、何もなく人々が暮らし続けることは困難である。

そこには産業があり、教育や福祉、生きがいや喜びなど暮らしていく上での環境がなければ島を守っていくことはできない。

私たちはマグロをとり続けて生きてきた。

それは伝統であり、生きる術であり、そして島を支える重要な産業の一つである。

私たちが一本釣りを選択したのは、海の恩恵を多くの人々で継続的に享受するための先人の知恵の結晶だからだ。

島の漁師がマグロで生きていくためには、先人たちの教えを守り続けなければならない。

言い換えるならば、先人の教えとは「資源管理型漁業」である。

私たちは、マグロの資源管理と先人の教え、そして日本の海を守り続けるために「壱岐市マグロ資源を考える会」をここに設立する。

<関連情報>

マグロ資源回復に成功した大西洋クロマグロは漁獲枠拡大へ。

クロマグロ漁獲枠、大西洋は拡大へ 規制で資源回復 国際委が報告書」

http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS09H0B_Z01C14A0EAF000/

下記の宮原さんの講演記録は面白いし、勉強になる。

IUUの元凶は台湾の便宜置籍船、とは。IUUの犯人は実は沿岸国、途上国として権限を主張している島嶼国だった、という事であろうか?また世界で投資規制がされているのが麻薬と武器と魚、というのも面白い。 漁業問題、複雑怪奇。

宮原正典氏 「まぐろを巡る国際問題」

http://fsf.fra.affrc.go.jp/open/kiro/pdf/kouenmiyahara.pdf