やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

太平洋島サミット2012ーフィジー問題

太平洋島サミット2012ーフィジー問題

 先日発表された太平洋島サミットの提言にフィジー問題が取り上げられている。

 日本は2006年の軍部クーデター以来、豪NZと一歩距離をおいて対話とエンゲージメントを主張して来たはずなので今までと変化がある対応とは言えない。

 但しPIFメンバーシップを保留されているフィジーを過去2回('06と’09。確か’06も呼ばなかった記憶があるが未確認)のサミットには招聘していないので、今回首相か外相を招聘すべき、という内容はPIFとNZ豪あたりからの反発が予想される。

 フィジー問題。いまどうなっているのだろう?

 9月にオークランドで開催されたPIF総会に合わせオーストラリアのLowy研究所がフィジーの軍事政権に対する国民の受け止め方を調査し60%が支持していることを発表した。

 これも以前より言われている事で驚くことではないが、公式な数字として出したことの意味は大きい。豪州国内にもアンソニー・ベルギン博士を始め「制裁よりも関与を」と主張する声は以前よりあった。

 他方軍事政権に理解を示していた米国政府は今回のPIF総会で豪州NZに足並みを揃える姿勢を見せている。

 さて、このフィジー問題の原因はなにか?

 人口の半分を占める、英国植民地時代に連れて来られたインド人とフィジー人の対立、とよく説明されるが、事はそう簡単ではない。以前御紹介したがバヌアツの研究所が出している4頁の報告書を見て頂くのが一番お勧め。

 乱暴に言えば、西の酋長と東の酋長の戦いなのである。

 17、8世紀頃南太平洋で海洋帝国を築いた王国があった。トンガである。フィジーも東部から徐々に植民地支配が進んだ。雨の多い東部に首都スバがあるのもそのためであろう。その後トンガの強大な支配力を西洋人が利用して植民地化を進めたのである。即ちトンガとヨーロッパ人による2重の植民地支配。

 

 ところが独立、近代化と共に民主主義と市場経済が導入され、砂糖黍と観光が盛んな西の酋長達とインド系が富み始めた。砂糖黍も観光もフィジーの基幹産業である。国際空港も西のナンディにある。これを面白く思わないのは東の酋長、即ちトンガ系の人々と彼らと結びついていた旧宗主国の人々である。

 上記のLowy Instituteの報告書に異論を唱えた人がいた。ハワイにある東西センター内のPIDP所長スティベニ・ハラプア博士である。現在トンガの国会議員でもある。そう、トンガ人なのだ。日本のフィジー支持は豪NZだけでなく、トンガやサモアなどから反発を招く事は必須である。

 フィジーの特殊な事情は理解できるが、確かに軍部が力で政権を取るのは、いいことではない。しかし事は4、5百年前続く歴史を覆す作業なのだ。

 個人的には現政権を支持している。

 2006年からの情報通信改革には目覚ましいものがある。軍事政権でなければステータスクオは、即ち今までの既得権益(非公式の植民地経済)を崩して競争を導入できなかったであろう。この10月には太平洋島嶼国初のブロードバンド国家戦略まで発表している!

 何よりも尊敬する東の酋長系Ratu Inoke Kubuabola現外相(元在京フィジー大使)が一族郎党を裏切って軍事政権を支持した事に心を動かされている。島社会では”親戚家族”が何よりも重要なアイデンティティなのだ。Kubuabola閣下の英断は重い。

 では日本政府はどのように対応すればよいのか。ここは2枚3枚の舌を用意しておく必要があるだろう。

 PIFとの共催のサミットの席にRatu Inoke Kubuabola外相に座っていただく調整ができなければ、例えば琉球大学主催で沖縄イニシアチブや、沖縄IT憲章の検証などを、大規模ODAでICTの支援をしている南太平洋大学と共催し、そこに我らがKubuabola外相を招いたらどうであろうか?閣下は前政権では情報通信大臣だった。