やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

シップライダーズ

シップライダーズ

 豪州が太平洋島嶼国に供与したPacific Patrol Boatは多くの教訓を残した。

 船を島嶼国に供与しても燃料を買う予算も無く、メンテナンスする施設も人員もなく、また法的整備がされていない島嶼国で積極的に違法行為を取り締まるインセンティブがない。犯罪者を裁き、勾留するキャパシティがないのだ。

 結果、Pacific Patrol Boat Program は島嶼国の自立を促すのとは逆に豪州への依存を深める事となっている。今豪州が支援の手を引けば、同盟国が好ましいと思わない国やシーシェパードがPacific Patrol Boatに乗り込み支援する事になるであろう。「危険なおもちゃを与えてしまった」とは某豪州防衛関係者の非公式コメントである。

 この教訓から豪州は現在のサイズの警備艇を将来供与するつもりはなさそうだ。ではどうするのか?豪州関係者が一様に声を揃えて支持するのがシップライダー協定である。米国沿岸警備隊が15年前から実施し、太平洋島嶼国では2007年から展開。現在ミクロネシア3国とキリバス、トンガ、クック諸島の6カ国と締結。今年のPIF総会では新たに2カ国(ナウル、ツバル)と締結した。

 これは米国沿岸警備隊の船に島嶼国の法執行官が乗船し海上警備活動を行う制度である。

 途上国、特に国家の経済規模に比較して非常に広大なEEZ保有する太平洋島嶼国の海洋監視活動は、ほぼ無きに等しい。途上国にコーストガード等の法執行機関の設置や強化、PSCの強化等を国際協力で支援しても、すぐにその効果は期待できない。その中でシップライダーは即戦効果が期待できる唯一の方法かもしれない。

 400年前、グロティウスがポルトガルとスペインの独占を打破するために思いついた『自由海論』はオランダ船の海上略奪行為を正当化した。この「自由海論」を基礎としているUNCLOSは海上犯罪取締が難しいシステムになっている。(と理解していますが、正しいかどうか不安)

 領海内は沿岸国の法が適用されるが、EEZ内は資源管理(living & non-living)のみ沿岸国の資源管理の法執行権が適用でき、後は公海の原則が適用される。公海での船舶の違法行為は基本的に旗国のみに法執行権がある。(でいいでしょうか?)

 米国が締結しているシップライダー協定は沿岸国の法執行官を米国の船舶、飛行機に乗せ、沿岸国の法執行を米国が支援する事が許されている。それは沿岸国の法執行権が及ぶ領海内、領空内、そしてEEZを対象とする。

 EEZの法執行範囲が資源管理だけなので、実態は違法操業の監視がメインになる。豪州海軍がなぜFFAに乗り込んで地域監視活動制度を構築したのか、これで理解できた。

 但し、違法操業監視がメインであっても協定相手国との協力活動は信頼構築につながり、他の犯罪を取り締まる時に有効である。

 シップライダーは協定相手国の海洋警備活動を支援と言いつつも、米国が実行する事を許する内容と捉える事もできる。国家主権の観点から「諸刃の剣」になることも懸念されないだろうか?

 以上、ハワイ沿岸警備隊14管区からいただいた下記の資料を参考にまとめました。

U.S.-FSM Shiprider Agreement Becomes Permanent, May 29, 2008

target="_blank">http://www.state.gov/documents/organization/109215.pdf

Bilateral Agreements -They’re not just for drugs anymore.

by CDR ANDREW NORRIS Staff Judge Advocate

U.S. Coast Guard 14thDistrict

http://wiki.answers.com/Q/What_is_a_shiprider_Agreement