やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

樋口レポートのリベンジ

ミクロネシアの海上保安事業が開始し、米豪とのやり取りも深まる中で直感したのが、これは日米同盟の新たな方向を示す事業であるという事であった。

そこで、早速笹川太平洋島嶼国基金、二代目の運営委員長で当方の恩師でもある渡辺昭夫先生に連絡をした。4、5年前の話だ。

「樋口レポートのリベンジは私がやらせていただきやす。」

渡辺先生は樋口レポートの実質的な執筆者である。

だから年末報道された安倍首相の太平洋訪問も樋口レポートまで辿れる。

冷戦時代、米ソの大きな安全保障の枠組みの中で日本はある意味何もしなくてよかった。

この体制が崩れ、日本は自主的な安全保障をいよいよ策定する必要に迫られた。

で、細川内閣時代1994年、座長にアサヒビール樋口廣太郎氏を招き防衛問題懇談会が設置される。

ところがこの樋口レポートに大きく反応した米国は、1995年ナイ・イニシアチブ「東アジア戦略報告(EASR)」を策定する。

秋山氏の『日米の戦略対話が始まった』によれば、樋口レポートで日米同盟を2つ目に持って来た事に米国は気分を害したというか、外圧とし利用されたという。

樋口レポートの精神は、概念は今も残っているのだと思うが、これをどのように表すか、特に米国との関係で慎重にならなければならない。また1994年当時と大きく違うのが中国の存在である。

米国の庭であるミクロネシアは、日米関係を強化すると共に米国の太平洋のプレゼンスを強化、確認する上で最適な場所であろう。なんせミクロネシア3国は米国と自由連合協定を締結したのにお金もくれないし、軍事的アクセスも減少し、人命救助や海洋監視もしてくれない事にイラだっているのだ。

さらに当該海域に進出している中国との新たな海洋秩序構築の可能性もある、即ち地政学的に重要な場所である、ということだ。