やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

フィジーに科された渡航制裁と豪NZへの逆襲

2006年のフィジークーデター以来、8年の年月を経てこの9月17日にいよいよ選挙が行われ、「民主国家」として再出発するフィジー

軍事暫定政権に強硬な姿勢を示して来た豪州。先般日本を訪ねたアボット政権は対太平洋島嶼国外交でも柔軟な姿勢を見せ、ビショップ外相とフィジーのバイニマラマ元国軍司令官(2014年3月05日に同職は辞任)の歴史的握手の写真は豪州の太平洋島嶼関係者に大きな安堵を与え、メディアに大きく掲載された。前向きな両国の未来を予想する記事を多く読んだ。

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<フィジーの逆襲>

ところが、先週この豪NZの楽観的ニュースを覆すようなコメントがフィジーから、バイニマラマ氏からあった。

豪州、NZがメンバー残っている限りPIFに一切戻る気はない。PIFは豪NZが牛耳っており、官僚的組織と化している。そしてクーデター後にフィジーが、クブアボラ外相が苦労して設立した島嶼国のみをメンバーとするPIDF(Pacific Islands Development Forum)を中心に地域協力による開発を進める方向を宣言したのである。

そうなんだ。ガキの喧嘩じゃあるめいし、「これからは仲良くしましょう。」「そうしましょう。」なんて行くのだろうか、と疑問だった。

8年にわたる豪NZの制裁はフィジーとの間に決定的な禍根を、地域レジームを変革する程の禍根(契機かもしれないが)を残した、と言ってよいであろう。

<豪NZが課した渡航制裁>

2006年のクーデターで、豪州が取った対応は軍隊を派遣する等強硬姿勢であった。対照的にNZは最後まで対話形成の努力はしていた。

その後、フィジーが、バイニマラマ国軍司令官が豪州NZに対話を提案しても一切受け付けなかった。その代わりに科したのがフィジーの軍人、高官に対する「渡航制裁」。

小国フィジーにとって渡航制裁がどれだけ痛手か。

人口80万人のフィジー、世界を繋ぐ航空便がある訳ない。必ず、豪州かNZ経由での国際便で飛ぶ必要がある。(ハワイ、香港等の直行便がある事はありますが。)

さらに、他の島嶼国と同様移民国家フィジー。多くの家族、親戚、友人知人が豪州、NZに滞在している。

よくこんな弱者イジメができるな、レベルの低い外交政策、植民地経営に見えた。こんな事までされたらフィジーBRICS諸国等との連携が強化されるのは当然の事である。

PIFとPIDF 根は同じ>

PIF Pacific Islands Forum(*)が設置されたのは1971年。それまでは1947年に設立されたSPC-South Pacific Commission (現在はPacific Community)という旧宗主国が主導する地域機関しかなかった。1970年にイギリスから独立したフィジーのカミセセマラ閣下の提案で、島嶼国による自決権の行使ができる地域機関としてPIFが設置されたのである。

PIF設立当時を振り返ったパプアニューギニアのソマレ閣下は、豪州NZをメンバーに入れるかどうかは苦渋の決断だったとコメントしている。結果、PIF島嶼国の意向が無視され、豪州NZに乗っ取られた形となってしまった。

母屋を取られた上に追い出されたフィジー。再度島嶼国の自決権を行使できる地域組織を設立する。それが2012年に設置されたPIDF(*2)だ。

<フィジーのいないPIFなんて>

PIF設立の背景を知れば、またその事務局がフィジーにある事を知れば、フィジーのいないPIFなんてクリープを入れないコーヒーの如く。

豪州とフィジーの喧嘩なんて放っておけばいいのだが、問題はPIF総会がこの7月にパラオで開催され、日本政府が主催する太平洋島サミットはPIFがカウンターパートになっている事なのである。

PIF議長国パラオのレメンゲサウ政権の技量が試される時であろう。

一番の解決策は、ここは豪州NZが大人になって、本来あるべき旧宗主国としての謙虚で余裕ある姿勢を示し、PIFの正式メンバーから一歩はずれる事だと思う。が、アボット政権はそんな事は微塵も考えていないようだ。

存在感を隠す事が逆に存在感を得る事になる。中国人はオーストラリア人に商売を教えるだけでなく、老荘思想も教えてあげればよかったのに。。

PIFは1999年のパラオでの総会まで South Pacific Forumと名乗っていた。Southを取ったのは議長国パラオのナカムラ元大統領である。ヘレンクラークとジョンハワードが最後まで強硬に反対した、とナカムラ大統領から直接伺っています。

*2 <現在のPIDF正式メンバー国>

フィジー

ナウル

マーシャル諸島

バヌアツ、

ソロモン諸島

クック諸島

ニューカレドニア

トンガ、

タヒチ

キリバス

パプアニューギニア

ミクロネシア連邦

”Fiji firm on PIDF, wants fundamental realignment of the Pacific Islands Forum: PM Bainimarama” より

http://www.islandsbusiness.com/news/fiji/5214/fiji-firm-on-pidf-wants-fundamental-realignment-of/