やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

安倍首相の太平洋訪問に向けて(7)パプアニューギニアの独立を支援した笹川良一

マイケル・ソマレ閣下の自伝"Sana"より。笹川良一名誉会長の左が独立目指す若き革命家であったソマレ閣下

 

 

年末年始にメディアに出た安倍総理の太平洋島嶼国訪問。

その話は流れたとか、来月に決定とか、色々な噂が入ってきて一喜一憂している。

しかし、昨日メディアに総理のパプアニューギニア訪問のニュースが流れたのでもうここにも書いていいだろう。

 

 

<パプアニューギニアの独立を支援した笹川良一>

パプアニューギニアは日本にとって重要な国だが、とりわけ笹川平和財団とは切っても切れない関係である、

太平洋を渡り歩いて24年。「笹川平和財団の者です。」と言うと相手の態度が一変する。

「オー、ササカワ、ササカワ」と急に歓迎ムード、VIP扱いされる。

笹川良一名誉会長が戦前戦後、太平洋島嶼国で何をしたのか?

一つがパプアニューギニア独立の支援である。私は国父でもあるソマレ閣下の自伝を読んで初めて知った。

1970年12月、PNG北部のウェワックに慰霊に訪ねた笹川良一名誉会長が当時独立運動の志士で危険人物と見られたいた青年マイケル・ソマレ氏と出会う。そのすぐ後に2枚の東京行き航空券がソマレ氏の元に届いた。

独立前の豪州の委任統治下のPNGである。政治的危険人物をビザも持たずに日本に渡航させたのだ。

ソマレ氏は書いている。当時豪州はPNGと世界を結ぶ事を避けていた。PNGの人々に世界で何が行われているか知らせたくなかったし、世界の人々に豪州がPNGに何をしているのか現状を知られたくなかったからだ、と。

そして1972年、PNGの独立をかけた選挙が行われる。ソマレ氏率いる政党は大きな後ろ盾もなく弱い。ソマレ氏が米国ドイツ初め世界中に助けを求めたが、支援を表明したのは笹川良一名誉会長だけであったそうだ。何を支援したのか?選挙運動用のジープとバスを日本から送った。選挙活動、足がなければどうにもならない。

結果,1975年の独立に繋がる総選挙でソマレ氏は大勝したのである。

 

 

<豪州とPNGの愛憎関係>

そのパプアニューギニアと言えばダウンアンダーの豪州との関係なしに語れない。

豪州とPNGの関係はニューギニア北東部をドイツの保護領に、南東部をイギリスの保護領にした1884年に遡る。

豪州(英国)にとって目の上の瘤であったドイツは、第一次世界大戦で日本帝国海軍が追っ払ってくれた。ベルサイユ条約で豪州は日本に赤道以北を譲って、念願のパプアニューギニア東部全域を統治する事になった。

第二次世界大戦で日本軍が攻めてきたが、今度は米軍が追い払ってくれて、やっとパプアニューギニアは豪州のものとなったのだ。

パプアニューギニアこそ150年来の豪州の念願の地であり、現在豪州なくてはパプアニューギニアはやっていけない。しかし、白豪主義(人種差別)を最近(70年代)まで国是としていた豪州である。国境侵犯を平気でする海軍を持つ豪州である。PNGと争いごとは絶えない。

豪州とPNGの関係は一言で言えば「愛憎関係」。

 

 

<シンゾーとトニーの約束ーブーゲンビル問題>

4月に日本を訪れた豪州のアボット首相。経済だけでなく、安全保障面でも積極的協力の方向を示した。日豪首脳会談の項目にある日本の海上自衛隊がANZAC100周年記念行事に参加する事の外に、ブーゲンビルの事があったのが気にあっていた。

 

”フィジーの選挙支援,ブーゲンビル自治州(パプアニューギニア)の平和・開発支援 に向けた協力を確認。” (日豪首脳会談に関する共同プレス発表(4月7日)より)

http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000034803.pdf

 

世界有数の銅鉱山を保有するブーゲンビル島。自然破壊と地元民への差別的対応等々、耐え兼ねた地元民が革命軍を創設。PNG政府は自国軍隊だけでなく英国の民間軍事組織(Sandline Int'l)まで雇って暴動を押さえようとした。結果、16万人のブーゲンビル島の10%近い1万5千人が殺された。80年代後半に始まった同暴動は1999年の和平合意まで続き、島の社会構造は破壊されつくした。

社会インフラだけでなく、ブーゲンビル島民のPNG政府や鉱山会社(リオテント)に対する感情的わだかまりは今も根強い。

このブーゲンビル島銅山開発には日本の企業も関わっているし、主な輸出先の一つは日本であった。ブーゲンビル島革命軍が使用した武器は第二次世界大戦で日本軍が同島に残していったものだ。

900近い言語、民族を抱えるPNGは多くの問題を抱えるが、ブーゲンビル問題はより深刻で、また日本はブーゲンビル島とは第二次世界大戦時の関係もあるし、鉱山資源利用者として構造的暴力にも加担している。平和合意以降のブーゲンビル島のインフラ開発、福祉教育、さらには独立するかPNGに留まるかと言った政治的地位の問題等々、道は長い。

日豪でこの問題に取り組む意味は大きい。

 

 

ところで今年からPNGの天然ガスが日本に輸出される。日本の東京電力は年間約180万トンを20年間、大阪ガスは年間約150万トンで20年間の契約がある、という。

PNGの天然ガス生産量は年間660万トンなのでその半分が日本に送られるとうことだ。

この天然ガス開発についてはソマレ閣下が豪州の鼻を明かすような動きを取ったので次回書きたい。

 

 

ブーゲンビル問題は下記のドキュメンタリーがお薦めです。

”The Coconut Revolution”

https://www.youtube.com/watch?v=LDpvxQe_Jhg