やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

アイリッシュ太平洋に再び登場 デジセル

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左からオキーフ、バートランカスター演じるオキーフ、そしてデジセルのオブライアン
ソマレ閣下(パプアニューギニア、ウェワック)から笹川陽平会長への電話の取り次ぎは、パプアニューギニアのICT状況がいかに改善さているか、身を以て知る機会となった。 900の言語、即ち900の部族がいる未開の奥地。これらは多くの離島と山岳地帯で隔てられたいる。こんなパプアニューギニアに電気通信のユニバーサルサービスが達成する事は有り得ない、というのが数年前までの世界の認識であった。 それがあれよあれよと言う間に、パプアニューギニアの津々浦々まで電話が、具体的には携帯電話が利用できるようになったのである。 何があったのか。ジャマイカで始まりカリブ諸国で展開した携帯電話会社デジセルが太平洋島嶼国にもやってきたのである。 このデジセル、Denis O'Brienというアイルランドのビジネスマンが手がけた会社である。 <ジャマイカの携帯電話> アイルランドの放送局、携帯電話で成功したオブライアン氏は、その会社を売った利益300億円を手にした。ある日3インチ(8センチ位)の広告を目にした。ジャマイカの携帯電話ライセンスの売却である。当時は人口6.5%程のお金持ちしか携帯電話は利用できなかった。2001年、格安サービスで、低所得者、地方へのサービス、即ちユニバーサルサービスを提供したのである。開始年度には十万人の利用者を目標に掲げたが、実際には2ヶ月の内にその目標が達成した。 <市民が守る会社> オブライアン氏はジャマイカを起点にカリブ諸国に携帯電話サービスを展開した。 その一つがハイチ、である。2005年の事だ。サービス開始1週間で12万人の顧客を獲得。2008年には二百万人(市場の64%)を獲得した。 ハイチの政情は不安定である。しかし市民の暴動があった日、デジセルのお店の前にはその市民が並んで「ここは市民の会社である」と守ったそうである。 <ビリオネラーも色々> パラオEEZを守ろうとするビリオネラーの実態を知ってからビリオネラーには疑いなの眼差しを持つようになってしまった。このオブライン氏もビリオネラーである。マルタに居住権を移し租税回避もしている。しかし、他のビリオネラーと違うのは、弱者へのサービスを展開する事でビリオネラーになったのである。石油や鉄鉱石、投資でビリオネラーとなったのとは違う。さらに携帯電話会社を経営する各国に財団を設置し教育分野を中心に社会貢献活動を展開している。 <アイリッシュ太平洋に再び登場> デジセルがサモアに来たのが2007年。それからフィジー、トンガ、ナウル、バヌアツ、パプアニューギニアと次々に展開している。勿論今まであった電話会社、そしてそれを守る通信規制との戦いは今もある。デジセルの従業員が誘拐されたり、脅かされたりといったこともあるらしい。それでもこのアイリッシュマン、オブライン氏は諦めない。 太平洋には伝説的なアイルリッシュがいる。 ちょうど今から150年ほど前、アイルランドのジャガイモ飢饉から逃げ出し、米国に渡り、色々あってヤップに辿りついた有名なアイリッシュがいる。David Dean O'Keefeだ。まだドイツのゴーデフロイ商会が来る前の西太平洋でコプラを中心とした貿易ネットワークを展開した。バート・ランカスター主演の『白人酋長』という映画にもなっている。 <太平洋島嶼国のデジタルディバイド> 笹川太平洋島嶼基金はUSPNetをきっかけにICT事業を展開して来た。USPNetはフィジーのカミセセ•マラ閣下から笹川会長が要請を受けその支援を検討していたが、最終的に笹川会長の判断で日本のODAとする事にした案件である。USPNetの要点は、PEACESATという実験衛星を利用したという起源を背景に、国の電気通信会社を利用せずに独自のネットワークを構築した事である。USPNetの成功は、福祉教育に電気通信がどれだけ貢献できるか最大の可能性を示し、さらに既存の電話会社の問題を太平洋島嶼国の国民に広く知らしめた事であろう。 デジセルの、アイリッシュマン、オブライン氏の太平洋での活躍も基金の事業と繋がっているようでなんだか頼もしく見えるのだ。 <参考> Francis X. Hezel, SJ "The Man Who Was Reputed to be King: David Dean O'Keefe", Journal of Pacific History, Vol. 43, No. 2, 2008: 239-252. http://micsem.org/pubs/articles/historical/frames/O'Keefefr.htm Heather Horst, Daniel Miller, "The Cell Phone: An Anthropology of Communication" 3/09/2011 Neil Weinberg Digicel's Denis O'Brien: Billionaire With A Cause http://www.forbes.com/sites/neilweinberg/2011/03/09/digicels-denis-obrien-billionaire-with-a-cause/ 7/24/2008 Bernard Condon Babble Rouser http://www.forbes.com/forbes/2008/0811/072.html