やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

新渡戸稲造、矢内原忠雄の植民地論

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 植民地、Colony この言葉からは過去500年の西洋人による、搾取、奴隷、暴力、独占、人種差別、等の言葉しか思い浮かばない。

 最初にこの偏見を改めさせてくれたのが、考古学者の愚夫が3千年、5万年前の人類の移動にcolonizationという言葉を使っていた時だ。 人類の移動イコール植民なのである。

 アダム•スミスの『国富論』では、植民地論をギリシャ、ローマ当たりから初めている。新渡戸、矢内原もギリシャ、ローマの植民地論を論じている。

 この数週間で読んだのは下記の文献

新渡戸稲造全集 第四巻 植民地政策講義及論文集

Nitobe, Inazo, "Japan as a Colonizer" The Journal of Race Development. Vol 2, No. 4 (April., 1912), pp. 347-361

矢内原忠雄、『アダム•スミスの植民地論』矢内原忠雄全集

 矢内原の文章は難しいが新渡戸はわかりやすくて面白い。 なんでもっと早くこの論文に出会わなかったのであろう。新渡戸稲造といえば『武士道』しかない、と思っていた。

 もしこれからこの論文を読もうとする方は、スミスの『国富論』にある植民地の章を読んでから、新渡戸稲造と矢内原忠雄の植民地論を読むとわかりやすいです。きっと先に新渡戸、矢内原を読んでも意味がわからない、と思います。 スミスはああだ、こうだとゴネゴネ言い回していますが、でも丁寧な解説でわかりやすいです。

 新渡戸稲造全集第四巻は思い切って購入した。矢内原忠雄全集は図書館でかりた。1−5巻が植民政策研究である。 この二人の植民地論がアダム•スミスを基盤にしている事は疑いようがない。矢内原はスミスが経済学の父であるだけでなく、植民地論の父でもあると明言している。 この植民地論、矢内原が戦後国際経済という科目で教えたように、国際経済、即ち国際政治にもつながる。ということはスミスは国際経済、国際政治、そして開発学の父、とも言えるのではないだろうか?