やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

ディカプリオの租税回避とナショナルトラスト

英国の国土、3分の一を所有する貴族の租税回避スキーム、ナショナルトラストが、広大なEEZを保有する小島嶼国の海洋保護区基金に応用されている事を知り、この税制がどうなっているのか?気になった。が、英文で税制関連の資料を読む勇気はない。

和文で見つけた。下記の立教大学浅妻章如教授の論文である。

しかも日本政府は名古屋COP10を控え、英国同様な税制改革を検討していたのだ。

しかも、浅妻教授は米国の環境NGOネイチャーコンサーバンシーが推進する「保全地役権」conservation easementの全容を明らかにしている。

 

浅妻章如「ナショナル・トラストその他の環境保全団体等への寄付に係る優遇税制の設計」

立教法学81号234-213(23-44)頁(2011.3)

http://www.rikkyo.ac.jp/law/output/rituhou/81/03.pdf

 

 

使用していない土地を、開発のためではなく、環境保護のために環境保護NGOに寄付すると、日本の現在の税制では寄付者に、実際にお金をもらっていなくとも利益が出てしまう。すなわち税金を払わなければならない仕組みのようだ。

また、環境のため、税金対策のため、といは言え、自分の土地を手放す人は少ないようである。

 

浅妻教授が調査したのが、米国環境NGO、ネイチャーコンサーバンシーが推進する「保全地役権」という制度である。土地を手放さない、一種の使用賃貸契約のようなもので、環境保護をしつつ、土地所有者が農作業等も引き続きできる。

勿論それだけではない。租税回避のスキームがある。かなり優遇なのだそうである。

下記、浅妻教授の上記のペーパーから引用。

 

(1)課税所得の最大半分までの控除が認められうる,

(2)課税所得の主たる部分が農林畜産業によるものである場合には最大 100%までの控除が認められうる,

(3)控除の未利用部分は 15 年間繰り越すことができる。

 

さらにメリーランド州の「保全地役権」が下記の通り紹介されている。

 

「メリーランド州のサイトにある租税優遇措置の解説によれば,例として 165,000 ドルの価値のconservation easement を寄付することによって 110,000 ドルの所得税が節約できるとか,例として 550,000 ドルの農地取得に際し easement(地役権)の寄付をすることによって 218,063 ドルの税金が節約され,新農地購入費用が 550,000 ドルから 331,937 ドルに減少するとか,説明されている。」

 

そして、このスキームの問題点が指摘されている。

この環境保護の美名の下に制定された税制に関してはかなりの研究調査が進んでいるようである。

 

「しかし,環境保全のためにあらゆる人間が誠実に取り組むとは限らず,税制上の優遇措置が存在すれば,租税回避もしくは優遇措置の濫用が起きうるのも世の常である。conservation easement をめぐっては,とりわけ土地の価値の評価をめぐり濫用・訴訟があるとされる。」

 

これだけではない。

米国の環境保全目的の土地と税制は、ブッシュ政権の時、2006年に大きく優遇されている。

1980年のカーター政権の時、寄付した土地の所得控除が30%までで5年間繰り越し可能であった。

2006年のブッシュ政権では、これが50%になり、15年の繰り越しに拡大された。

 

 

これは、お金持ち優遇政策である。

ブッシュと言えば、2009年辞める間際に、太平洋に広大な海洋保護区を制定している。

お金持ちの租税回避を手伝う環境ロビーに手玉に取られたに違いない。

 

 

問題は、この環境保護の美名の下の租税回避スキームが実際の海洋保護活動と殆ど関係ないどころか、持続可能な開発まで阻止してしまうことだ。

しかも、このように集まった基金は、途上国のエリートに裨益されるが、一般市民には関係ない事が課題としてあげられている。

さらに、問題はディカプリオのような世界的映画俳優がこの税制スキームを環境保護の美名の下に展開する事で、環境や税制の複雑な仕組みを知らない、一般市民は安易に流されてしまう事だ。

 

 

以上、租税の事は全くわかりませんが、思いきってまとめてみました。

本件に関心のある方は是非、浅妻教授(お会いした事もありませんが)ペーパーをお読み下さい。