やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

パルド大使と人類共同の財産(3)

引き続き、当方の指導教官坂元茂樹教授の「深海底制度の成立と変遷 ー パルド提案の行方 ー」 p. 263-286、『海洋法の主要事例とその影響』(現代海洋法の潮流 第2巻)栗林、杉原編集。2007年、有信堂高文社。から。

非常に複雑な話で10回位読んでいるが、なんとなくわかった、という感想です。でもこの話はやっぱり今のBBNJの議論を理解するにも必要だと思う。

パルド提言を受けて、国連海洋法条約は136条に「深海底及びその資源は、人類の共同の財産である。」と規定。しかし米国をはじめとする先進国には到底受け入れがたい内容となった。坂元教授は「そこに、海洋法条約における海底資源制度の悲劇があった。」と指摘する。(p. 271−273)

そしてCHMの実現形態は1994年の国連総会で採択された「深海底制度実施協定」で葬り去られた、と。(p. 271)

複雑な経緯を飛ばして、「おわり」の坂元先生の分析に移りたい。

下記に気になった箇所だけメモしておく。

「ひるがえって考えてみれば、「人類の共同財産」なる概念は、その前提として「人類全体なる社会」を措定しているが、はたしてそうした社会が法的に実在しているかどうかについて疑問を差し挟む余地がないほど、彼の提案は魅力的であったといえる。」(p. 277)

パルド大使が提言した60年代。小国がどんどん独立する当時の時代的背景もあったように想像する。パルド大使の母国、マルタ自身も英国領から1964年に独立したばかりだった。

「(前略) 次のような疑問も生じる。すなわち、仮に生産制限や義務的技術移転がCHM原則の趣旨および目的ではないとすると、海洋法会議におけるあの長い対立は一体なんだったのだろうか、という疑問である。(中略)..開発活動の国際的コントロールが十分に担保されている内容になっているかどうか、(略)実施協定の内容が、「海洋の自由」から「海洋の管理」へという海洋法の発展の道筋にふさわしものになっているかどうか、..」(p. 279)

「いずれにしても確実にいえることは、現行の実施協定の枠組みは第三次国連海洋法会議のNIEO実現のための新たな海洋法秩序の構築という熱狂からは、ほど遠いものになったということである。(中略) 先進国と途上国との間に依然として存在する格差是正に、新たなCHM原則の実現形態がどれほど寄与しうるのか未知数である。」(p. 280)

この論文が掲載された本が出版されたのは2007年。坂元先生のこの指摘から10年だが、少なくとも「先進国と途上国との間に依然として存在する格差是正」は改善されていないのではなかろうか?

海底資源の方はどうか?

水産資源は状況が悪化しているように思える。