やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

『国際海洋法の現代的形成』田中則夫著(読書メモ)その8

「第2部深海底制度の成立と展開」の最後の章、「第7章深海底制度の設立・修正・実施」 p. 217-244

今まで深海底制度の復習的内容。目新しい、というか私が気になった箇所だけ引用しておく。

p. 219 1958年に大陸棚条約によって樹立した大陸棚制度は海洋史上初めての国際海底制度。

   第一次海洋法会議、国際法委員会では公海の自由に海底開発も含まれるとの見解の一致はあったが公海条約に規定はしなかった。必要がない、との判断で。(公海の4つの自由、1) 航行の自由 2) 漁獲の自由  3) 海底電線及び海底パイプラインを敷設する自由  4) 公海の上空を飛行する自由 )

p. 223-224 先進資本主義国が、深海底制度を必要とした理由は公海の自由では保証されない排他的権利を確保できるから。途上国の理論とは違うが、目的は一致していた。

p. 225 「先進国が強く異議を唱えたのは、資源開発活動への投資の意欲を損なうような仕組み、つまり、締約国や企業に対して課題な財政負担を求め、経済効率を無視した厳しい活動の条件を課すことに対してであった」

p. 226 アメリカは海洋法条約が採択された1982年の春会期で グリーンブックと呼ばれる非公式文書を配布し、改めて主張を開示。日本含め他の先進国もアメリカを指示。(ここ、興味深い。すなわち数の力で途上国が条約を押し通しても、先進国がウンとは言わないケース。結局この妥協しない態度が実施協定に繋がるのだ)

p. 227 そしてアメリカはこの原則宣言を無視して開発を始めるが、途上国は国際法上許されないと、主張。アメリカが原則宣言は法的拘束力のない総会決議であって、慣習法ではないと反論。一般国際法の捉え方をめぐる論争。

実は、この本を数年前に開いた時、この「第2部深海底制度の成立と展開」は関係ないや、と思って読んでいなかったのだ。しかし、こうやって読むと現在議論されているBBNJの議論と重なるところが多い。

次はいよいよ第3部海洋生物多様性と海洋保護区。ここは何度も読んだ章である。