やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

愛国心とミクロネシア海上保安事業

オリンピックの年に生まれた私は、小学校や中学の先生が国旗掲揚や君が代斉唱の時に何となく奇妙な態度を取るのを不思議に思った記憶がある。国歌の練習なんかたった一人の先生しか指導してくれなかった。今思い出すとあの音楽の先生は特殊だったのかもしれない。

ともあれ、国歌国旗に対する、即ち愛国に対するワケのわからない抵抗とその事自体への抵抗を二重に抱えて育った気がする。。

愛国心、というものを学んだのは、20を過ぎてから出会ったアセアンの友達からだった。彼らは命がけで国を作ってきたのだ。20代 30代で、大臣、市長になっていく彼らを見て国を愛する情熱に触れた。自分の国を愛せなければ友人の国を愛する気持ちに共鳴できない。

そしてオーストラリアで”Made in Australia”と国旗と共に書かれた製品がずらっと並んでいるのを見て、最初は違和感を覚えたが、自国製品を守ろうとする愛国心も、これも始めて知った。

さて、ミクロネシア海上保安事業の事である。

2008年5月、太平洋司令軍キーティング司令官が指摘した中国の太平洋分割案、に笹川会長が反応し、正論に記事を発表した事がきっかけで、元国交省審議官羽生氏の主導でミクロネシアの海上保安事業が進んだ。

笹川洋平が思いつきで書いた正論に、意見を求められミクロネシア地域の支援を提案したのは当方である。

羽生氏の国交相利権を目論んだ海上保安、というアイデアにミクロネシア大統領サミットの枠組みを、と提案、合意を得て進めたのも当方である。

当初はこの動きの中で、もしかしたら将来海上自衛隊など日本の防衛力がこの地域に展開する「道」を自分が作ってしまうのではないか?という不安を持った。

羽生さんと寺島さんの意見は、財団の事業はあくまで法執行である、という説明で法執行と軍事の違いを勉強し、なんとなく自分を納得させた。

しかし、現場を観察して行くと、法執行機関の沿岸警備隊を抱える米国では海軍と沿岸警備隊は表裏一体の関係だ。豪州など英国系は海軍が法執行を行う。そうすると日本が特殊である事がだんだんわかってきた。

なによりも太平洋の広大な海洋で繰り広げられる越境犯罪だ。中国の脅威より、どこの誰ともわからない船の違法漁業、人身売買、麻薬、マネーロンダリングの方が脅威だ。彼らは武器を持っている。そして太平洋島嶼国の海洋警察はほとんど取締らないか、見つけても後の処理が大変なので、拿捕せずに見逃す。

米国は現在約百隻の軍艦が法執行船としてWCPFCの違法操業取締に登録している。そして沿岸警備隊は予算増額は押さえられている。law ship とwar shipが自由自在に立場を変える柔軟さ!

こういう現実を10年見て来ると、子供の頃から育てられた「軍事」への抵抗感がなくなり日本の海上自衛隊でも水産庁の取締船でも、なんでもいいから太平洋に出て来て欲しい、と思うようになった。

安倍政権が防衛費拡大を目指している、という。

海上で起っている事がだんだん国民に伝わってきて、海上保安庁、水産庁の監視防衛能力は拡大している。防衛費が増額するまでこの2つのシーパワーの強化を維持し、3つのシーパワー、即ち海保、水産庁、海自の人的交流を進めたらどうであろうか?

この3つのシーパワーをまとめる、というのは機能や目的が違うので難しい、という事は学んだ。しかし人的交流は可能だ。

実はこれを米国が9.11の教訓として進めている。沿岸警備隊を海軍に統合せず、国家安全保障省という新たな省に丸ごと移した。しかし海軍との協力関係は強化されてきたのだ。