やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

日本の衛星開発を後押しした私

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国際宇宙協力の一貫で進められた衛星事業パートナーズで使用されや「きく5号」(ETS-V)

 

昨日、衛星開発の専門家と話す機会があった。

私が日本の衛星開発を後押しした歴史を知らなかった。そう、私は歴史を語る立場となったのだ。

 

私が財団に入った1991年。前任者が混沌の状態にして残して行った案件の一つが「太平洋島嶼国のために衛星を打ち上げて欲しい」というフィジーのカミセセ・マラ閣下から笹川陽平氏に要請された案件だった。

 

私は当時26歳。教育学修士、アセアンの青年国際組織幹部の経験があったが、情報通信は何も知らない。しかし業務である。羽生さんではないが走りながら考えた。その中で申請が出て来たのがハワイ大学のPEACESAT政策会議だ。書くと長くなるので省くが、カミセセ・マラ閣下が笹川会長に要請した衛星打ち上げの背景にこのPEACESATが使用できなくなった事がある。米国の中古衛星で、太平洋島嶼国の人々に無料の通信を提供していたのだ。

 

その国際会議は新たな中古衛星を入手したハワイ大学が太平洋の関係者を一堂に集め、政策を協議する事が目的だった。約2500万円の助成金だ。この事業の意味を、即ちカミセセ・マラ閣下の要請につながる事を私は理解し、推薦案件として推した。財団には太平洋島嶼国の事も情報通信の事も知る人はいない。私の説明を鼻で笑って聞いていたおじさんの姿しか覚えていない。でも、とにかくこの案件を運営委員会は、理事会は通したのだ。私は当時笹川会長が何某かの判断をしたのだと想像しているが間違っているかもしれない。確認した事はない。

 

ハワイ大学のカウンターパートは東北大学だった。お名前を忘れたが(追記:野口正一教授でした)当時の東北大学の担当教授がこの会議の意味を咄嗟に理解し、東北大学として郵政省を動かし資金集めをした。これがさらに2500万円位になって、5000万円位の国際会議になったのである。

 

それだけではない。郵政省は外務省と米国から宿題をもらっていた。1992年は米国が提唱し国際宇宙年であったのだ。衛星開発を担当する郵政省も何かやれ、という話だったのだ。さらに運命の偶然。笹川会長のお兄さん、笹川堯議員がたまたま、本当にたまたま郵政省の政務次官だったのである。仙台で開催された会議に笹川議員は5分のスピーチをするため国会開催中にも拘らず駆けつけてくれたのである。

 

まだある。PEACESATは米国の宇宙開発の中で途上国への国際平和利用、という特殊な位置を占める。事業担当者の個人的問題もあり管轄するNASAとの関係は微妙だったようだが、こんな重要な会議が日本で開催される事に驚き、NASA長官が出て来るという話になった。衛星という安全保障最高のテーマが民間財団の助成で進められたのだ。当時の米国はジャパンバッシングの時期。ハワイ大学の担当者は外部との連絡を禁止された時期があったそうだ。

 

ここまで来ると、鼻で笑って人の話を聞いていた財団のおじさんは、自分たちが理解できなった事に焦りを持ったようだ。どなられた事もある。きちんと報告していたのに、だ。

財団の誰も顧みなかったような事業が日本政府を米国政府を動かしたのだ。私も驚いたが怒らなくてもいいと思う。

 

私のミッションは、カミセセ・マラ閣下が笹川会長に要請した太平洋島嶼国の為の衛星である。

この日本の実験衛星の利用も検討したが、日本側関係者は誰も太平洋島嶼国の、南太平洋大学のユーザー、即ち学生や教員の事を考えていないのである。太平洋島嶼国側もJAXAの衛星実験に付き合わさせられる事に辟易していた。

さらに衛星ビジネス権益と宇宙空間の安全保障権益を巡る米、豪、英からの圧力と、90年代に大きく動いた衛星ビジネスの民営化など、状況はどんどん動いたのだ。

 

ともあれ、財団の2500万円の助成金は日本の衛星開発を、宇宙開発を(米国と共に進める:ここ重要)後押しするという予期しなかった結果を導いたのである。5年後の1997年には、あらゆるステークホルダーとの利害調整を経て、日本のODA案件として、カミセセ・マラ閣下から笹川陽平運営委員長(当時)への要請を南太平洋大学遠隔教育ネットワーク ー Upgrade USPNet として達成する事ができたのだ。

 

 

参考

平成6年版 通信白書

3 宇宙通信政策の展開

 (1) パートナーズ計画の推進

 電波伝搬実験や衛星通信等の共同実験を通じて、技術移転・技術交流を行い、国際協力の促進を図ることを目的とするパートナーズ計画は、我が国においては郵政省と宇宙開発事業団が中心となって4年度から推進されており、アジア・太平洋地域の開発途上国との間で、技術試験衛星V型を用いて、衛星通信回線構築のための電波伝搬特性実験、遠隔教育、遠隔医療等の共同実験を行っている。

 5年度においては、赤道近傍地域における地磁気と電離層の電子密度の相関関係の把握に基づき衛星電波の伝搬特性を解析する実験等を実施した。

 

http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h06/html/h06a02010301.html より

 

 

平成10年版 通信白書

第3章 情報通信政策の動向

 

第8節 宇宙通信政策の推進

 

  2. 衛星アプリケーションの開発・実証の推進

 

(1) ポスト・パートナーズ計画

 郵政省は、4年11月から8年3月まで、「パートナーズ計画」と呼ばれる、アジア・太平洋地域の諸国を対象にETS-Vを利用した衛星通信に関する共同実験を実施した。この実験には、大学、病院、研究機関等、日本国内12か所と海外5か国(タイ、インドネシア、フィジー、パプア・ニューギニア及びカンボディア)が参加した。

 現在、パートナーズ計画の成果を生かし、動画像伝送を可能としたシステムの充実を始め、実験内容の拡充及び参加国の拡大を図り、GIIやAIIをめぐる動向等を踏まえ、アジア・太平洋地域の情報通信基盤の整備及び人材育成等に貢献すべく、「ポスト・パートナーズ計画」として衛星通信国際共同実験プロジェクトを推進している。この実験を通じて、教育・医療・学術研究等の分野で衛星通信をどのように利用できるかを実証するとともに、人材育成のための技術移転を行うこととしている。

 

(2) 衛星アプリケーション実験推進会議

 衛星アプリケーション開発は、衛星通信発展のために、衛星開発と両輪をなすものであり、電気通信技術審議会答申「宇宙通信の将来像と今後の研究開発の推進方策」(8年5月)において、21世紀の情報通信基盤の一翼をなす衛星通信の利用を一層促進するために、様々な衛星アプリケーションの開発を推進すること、及びこのために必要な産学官が連携した衛星テストベッドを整備することが提言されている。

 これを受け、郵政省では、衛星アプリケーション開発に資するG7のGIBNプロジェクトの一環である日米、日欧間の高速衛星通信実験とともに、日韓高速衛星通信実験や国内アプリケーション開発を総合的に推進することとし、9年10月から「衛星アプリケーション実験推進会議」を開催して、産学官の連携の下、衛星テストベッドの整備及びこれを用いた様々な実験の一層効率的・効果的な推進に努めている。

 

ア 日米実験(日米共同高速衛星通信実験)

 日米共同高速衛星通信実験構想の推進について、6年11月に意見が一致し、9年2月に第一段階の実験として45MbpsのATM接続を達成し、同年3月には高精細ビデオ・ポストプロダクション実験のデモンストレーションに成功した。今後、第二段階の実験として、10年2~3月から、155MbpsのATM高速衛星回線を用いた画像伝送実験を行う予定である。

 

イ 日欧実験(JEGプロジェクト)

 9年7月に日本-ESA行政官会議で一致して取り組むこととされたJEG(注22)プロジェクトプランに基づいて、日本とヨーロッパを高速衛星回線で結び、実験を行う。意見の一致をみた当初の実験テーマは、 [1] DAVIC(注23)版Video-on-Demand相互運用性実験、 [2] 衛星通信を統合したインターネット、 [3] 地球観測データの交換実験、である。

 

ウ 日韓実験(日韓高速衛星通信実験)

 9年9月に韓国情報通信部において行われた局長級会合で一致して取り組むこととされた高速衛星通信実験の具体的な推進方法に基づいて、当初は、 [1] ATMによるLAN間接続、 [2] ATMによるマルチメディア通信、 [3] 高精細画像伝送実験(立体画像を含む。)、 [4] リアルタイムVLBI、 [5] 遠隔医療、の実験を行う予定である。

 

エ 国内アプリケーション実験

 8年度補正予算で可搬地球局を配備するなど、衛星テストベッドの整備を進めている。なお、実験テーマについては、9年12月から募集を開始しており、幅広く実験を実施していくこととしている。

 

http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h10/html/98wp3-8-2.html より