やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

安倍総理提案:南太平洋大学における日本語コース(追記あり)

今回の島サミットは色々な意味で私にとって特別になった。

もちろん、議連講演会に呼ばれた事をきっかけに、1年かけて仕込んできたインド太平洋戦略と海洋安全保障がトップだが、首脳宣言には安倍総理提案の南太平洋大学における日本語コースが挙げられている。

38 首脳は,太平洋諸島フォーラム島嶼国における日本語教育の重要性を強調し,安倍総理は,南太平洋大学における日本語コースの立上げに向けたものを含め,この分野における支援を継続する用意がある旨表明した。太平洋諸島フォーラム島嶼国の首脳は,日本によるこのような取組を歓迎した。

第8回太平洋・島サミット(PALM8)首脳宣言(福島県いわき市

(2018年5月18日及び19日)

http://www.mofa.go.jp/mofaj/a_o/ocn/page4_004026.html  より

この案が出てきた背景には日本への季節労働者派遣要請があったのではないか?

これはニュージーランドで成功し、太平洋島嶼国は日本でも拡大したいのだ。しかし言葉の壁があるのは想像に硬くない。

笹川太平洋島嶼基金は1992年から6年間に渡って南太平洋大学における日本語コースを支援してきたのである。下記に事業内容をコピペしておく。

事業を立ち上げたのは自分ではない。事前評価がほぼ行われずに立ち上がったのは知っている。当初の予定では6年継続すれば生徒数が増え、事業は自立するという話であったが、全然そのようにはならなかった。

そこで、さらに継続するにしても終わるにしても事業評価をしっかりしないと、6年間出した助成金の意味がないと財団で主張し、散々馬鹿にされながら1996年と1997年に評価・調査事業を、国際日本語普及協会理事長(当時)の西尾珪子さんとカッケンブッシュ・知念・寛子先生に委託したのである。

(追記)この報告書は国際日本語普及協会(AJALT)にあります。

これがその報告書である。

笹川島嶼基金平成9年度自主事業「太平洋島嶼地域の日本語教育調査」報告書

https://www.spf.org/spinf/spinf_j/publication/detail_16687.html

今回は安倍総理提案の事業とのことで、ぜひこの報告書を参考にしていただきたい。

当時と違うのは現在は日本の ODAで南太平洋大学に遠隔教育のシステムができているので、是非これを利用して大学だけでなくコミュニティ、ビジネスの場でも学べるモジュールを作っていただきたい。ニーズがあるのは現場なのだ。

そして、離島、僻地の隅々まで教育が行き渡ること。それが南太平洋大学の建学の精神でもあるのだ。

<1992ー1997年の事業一覧>

1992年 

南太平洋大学日本語講座設置

事業目的

南太平洋諸国の日本に対する関心の高まりを受けて、南太平洋大学に日本語講座を設置。日本語・日本の文化について学び、理解を深めてもらうことを目的としました。

実施詳細

日本語教師の募集と選考を1993年4月~10月に実施。さらに1992年2月には、オーストラリア・モナシュ大学MAの講師が就任。當作教授(カリフォルニア大学)の開発した教材を使用し、計18名で講座を開始した。

成果

初級17名、中級1名の学生が履修、順調な滑り出しをした。講師は意欲的に、日本語教育および講座の調整に取り組んでいる。今後は、本事業の統括責任者の指導のもとに、講座の運営を行う。

事業実施者 The University of The South Pacific (フィジー) 年数 6年継続事業の1年目(1/6)

形態 自主助成委託その他 事業費 3,283,713円

1993年

事業内容

太平洋島嶼国では、日本経済の影響力が強まるにつれ、貿易・産業界を中心に日本語教育に対する認識が高まってきました。そこで、同地域の国際総合大学である南太平洋大学に日本語講座を開設し、地元のニーズに応えるとともに、将来は、同大学が独自に日本語講座を設置できるよう体制を整えることが目的です。

本年度は、学生を対象に、ビジネス、観光産業、読み書きが中心の四つの選択科目(単位取得科目)と、単位取得を目的としない自由選択コースを実施しました。

また、観光産業、在フィジー日本大使館、大学などに在籍する、業務上日本語を必要とする人たちのために、コミュニティ・レベルのコースも実施しました。

1、2学期とも受講者の数は少ないものの、授業内容はかなり質の高いものであり、外部から日本人を招いて生きた会話に挑戦するなどの工夫もこらしています。

事業実施者 The University of The South Pacific (フィジー) 年数 6年継続事業の2年目(2/6)

形態 自主助成委託その他 事業費 4,877,180円

1994年

南太平洋大学日本語講座設置

事業内容

太平洋島嶼国では、日本経済の影響力が拡大するにつれて、日本語教育の必要性が認識されるに至っています。このような地元からのニーズに応えるため、南太平洋大学に日本語講座を設置しました。将来的には、同大学が自力で日本語を専攻する学生のための講座を設置できるように体制を整えるのが目的です。本校での単位習得科目をはじめとするいくつかのコースを設置し、同時に観光産業、大学職員など業務において日本語習得を必要とする人のためにコミュニティ・レベルでのコースも実施しました。

事業実施者 南太平洋大学(The University of The South Pacific/フィジー) 年数 6年継続事業の3年目(3/6)

形態 自主助成委託その他 事業費 6,558,071円

1995年

事業内容

日本経済の発展とともに、観光事業を中心に日本との結びつきが深まった太平洋島嶼国の間で、日本語教育の必要性が高まっています。本事業は、フィジーにある、太平洋地域の国際総合大学である南太平洋大学に日本語講座を設置し、将来的には同大学が自力で日本語を専攻する学生のための日本語講座を設置できるように道をつける事業です。

95年度は、4段階に分けたコースで各種講習を実施するとともに、通信教育用教材、"Basic Japanese, Stage 1"を開発しました。観光ガイドレベルから正規の学生まで、本講座の対象はさまざまですが、南太平洋大学が13の島嶼国を対象とした「地域大学」であることから、今後は各島での通信教育を利用した講座の発展が期待されます。

事業実施者 南太平洋大学(University of the South Pacific/フィジー共和国) 年数 6年継続事業の4年目(4/6)

形態 自主助成委託その他 事業費 4,902,695円

1996年

南太平洋大学日本語講座設置

事業内容

南太平洋大学はスヴァ(フィジー)の本校と南太平洋各島に12の分校を持つ総合大学です。本事業では、正規学生を対象に、本校で初級、中級あわせて計4つの日本語教育クレジットコースを実施すると共に、各島で社会人を対象とした短期集中講座を実施しました。また、通信教育用テキストブックの開発を昨年に継続して実施しました。

本校の正規学生を対象とした授業では、ビジネス、観光産業、読み書きを主とした4段階のレベルの教科を、前期16名、後期10名の生徒が受講しました。そのうち試験に合格したものは前期12名、後期10名です。他にナウルクック諸島のエクステンションセンターで地域市民を対象に短期講習を実施し、ナウル校では1996年7月5日から17日の期間に47名が、クック諸島校では1996年12月4日から17日の期間に34名の受講生が受講しました。さらに同校の通信教育で利用できる教材『Basic Japanese, Stage 2』を昨年度に引き続き編集しました。

事業実施者 南太平洋大学(University of the South Pacific/フィジー共和国) 年数 6年継続事業の5年目(5/6)

形態 自主助成委託その他 事業費 6,703,951円

1997年

南太平洋大学日本語講座設置

事業内容

太平洋島嶼国は、日本との経済的・政治的関係を年々深め、多くの日本企業が現地に進出するとともに、日本からの観光客も増加しています。経済開発は太平洋島嶼地域が自立のために真剣に取り組むべき課題であり、日本との関係強化、すなわち日本文化や言語の理解は島嶼国の人々にとって必須のものとなっています。

本事業は、太平洋島嶼国地域の総合大学である南太平洋大学に日本語講座を設置し、日本語学習のニーズに応えるとともに、同大学が日本語を主専攻とする学生のための日本語講座を設置することを目的としました。

1993年1月には初代日本語講師が着任して日本語講座を開講、96年には4代目日本語講師を迎え、同講座の5年目を継続しました。日本語講座は各学部レベルの選択科目とされ、単位を得ることができます。本校の講座には毎年10~15名の生徒が登録、少数精鋭で大学レベルの日本語教育を行っています。

コースは主に貿易、商業上の需要を念頭に置いた実用会話の習得を中心とし、さらに日本文化、社会、地理、歴史等についての学習も行っています。これには、漢字を含めた日本語の読み書き能力の習得も含まれています。毎年行われている各国の分校での講座には、短期ながらも毎回数十名の受講生が参加しました。本校ではビジター・セッションを設け、在フィジー日本人との交流会を行ったり、大学のオープン・デイには生徒が中心となって、日本文化や言語を紹介する活動も行っています。

本事業は当初の6年助成の計画通り、本年度で終了することとなりまた。終了を迎えるにあたり、前年度に専門家に委嘱して事業評価を行い、本事業のみならず太平洋地域全体の言語政策を含む日本語教育および遠隔教育について、さらには日本と太平洋島嶼国との将来的関係について、網羅的な評価報告書を作成しました。同報告書が各方面で予想以上の反響を得て、本事業が日本政府のODA事業として引き継がれることになったことは喜ばしいことです。

事業実施者 南太平洋大学(The University of The South Pacific/フィジー) 年数 6年継続事業の6年目(6/6)

形態 自主助成委託その他 事業費 5,040,596円

<評価・調査作業>

1996年

太平洋島嶼日本語教育評価

事業内容

国内の日本語教育専門家による南太平洋大学の日本語講座設置事業の評価作業を実施。同時に同地域で展開している協力隊やNGOによる日本語教育の実態調査および島嶼国政府の言語教育政策、遠隔教育の現状等について関係者へのインタビュー、文献調査を行い、同地域に対する日本語教育に関する提案を含む報告書を作成しました。

評価者は短期間の作業にもかかわらず、太平洋島嶼国の文化的・社会的固有性の理解に努め、国内外で100名を超える関係者との面接調査を実施するとともに、100冊以上の文献を研究しました。報告書には現状改善を前提とする継続的支援の必要性が強調されており、この評価を基に、当基金が5年間支援してきた日本語講座を今後どのように行なっていくか、施策を立てる必要があると思われます。

事業実施者 笹川平和財団 年数 1年継続事業の1年目(1/1)

形態 自主助成委託その他 事業費 4,634,235円

1997年

太平洋島嶼日本語教育調査

事業内容

笹川太平洋島嶼基金は1992年度から6年間、「南太平洋大学日本語講座設置」事業を助成しました。助成期間の終了を迎えるにあたり、96年度には、事業評価を国際日本語普及協会・西尾珪子理事長と名古屋外国語大学・カッケンブッシュ知念寛子教授に委嘱し、その結果、本事業は国際協力事業団に引き継がれることが決まりました。ここで基金の役割は終了すべきところ、太平洋島嶼地域の情報が少ないこと、特に日本語教育の現状調査が皆無であったこと、何より評価者がこの地域の日本語教育のみならず全般的な援助政策に深く関心を持ったこともあり、97年度は北太平洋も含む全太平洋地域を対象に調査を継続することとしました。さらに、当基金が進めている「太平洋島嶼地域の遠隔教育支援プログラム」の視点より、遠隔教育開発の側面からの調査を盛り込みました。

97年に実施した調査・研究と、96年度の南太平洋地域における調査結果とあわせて考察を行い、報告書『日本語教育とその環境―太平洋島嶼地域における―』を作成し、内外の関係機関へ配布しました。同報告書は青年海外協力隊の研修や国際交流基金日本語教師研修のテキストとして利用されている他、国内の30以上の大学の日本語教育の現場でも貴重な資料として活用されています。事業の波及効果として、2人の評価者は調査で得た情報と知識をもって、太平洋島嶼国および遠隔教育の研究分野において、執筆、講義、学会発表などで活躍しています。

事業実施者 笹川平和財団 年数 1年継続事業の1年目(1/1)

形態 自主助成委託その他 事業費 3,863,621円