やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

東京帝国大学植民政策講義(5)新渡戸博士の講義(大内兵衛の解説)

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手元にある新渡戸全集第4巻は昭和59年2月15日の版です。初版は昭和44年11月25日。この全集の解説をマルクス経済学者の大内兵衛が書いている。大内兵衛も東京帝国大学法科大学で大正元年から二年までこの講義を聞いている。(それでもマルクス主義者になったのだ!)

この解説の意味は深い。矢内原が東京帝国大学植民政策講義を1942年にまとめた意味に一切触れていないのだ。大内兵衛も戦中口を閉ざしたマルクス主義者の一人であったのであろうか。

解説の最後で新渡戸の植民論を共産主義的に解釈(曲解?)している。これを矢内原はどう受け止めたであろうか?新渡戸の植民の結語は「世界土地共有論」であるという。これは海洋秩序の「人類共同財産」の概念に近い。しかし新渡戸は「土地を最もよく利用する者、土地をもっとも深く愛する者こそ土地の主となるべし」とも言っているのだ。

矢内原が新渡戸の植民政策講義を1942年に編集、1943年に出版し、第二次世界大戦真っ只中の日本歩む道をどうにか軌道修正したかった思いは、もしかしてほとんど誰も気づいていないのではないか?