やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

ポパーの「開かれた社会」批判

 カール・ポパーの「開かれた社会」は、ソロス財団がそれを参考にしていたので、一つの「財団のあり方」として以前興味を覚えた事と、フロム同様、ナチスが誕生した背景を洞察しているのではと思って本を手に取った記憶がある。

 大学のゼミでこの本が指定され昨晩読んだのだが、ポパーが批判するギリシャ哲学やその他諸々、背景がわからないと理解できない!と思い、途中で諦めてレビュー(critique)を読む事とした。なお、ポパーが何かもわからず、選んだ資料は全くの勘。

 以下、そのメモ。

 

<Gardian 2106>

2016年のGardian の書評。筆者は編集者のRobert McCrum。ノンフィクションで選ばれた100冊の一冊としてポパーの「開かれた社会」をレビューしている。

  • 1945年に出版されたこの本は1960年代に主要文献になった。
  • ポパーは1919年の数ヶ月だけマルクス主義になるがすぐに幻滅し暴力革命を否定する。
  • オーストリアのファシズム化。1938年のナチスの侵略でポッパーは亡命者となり全体主義とマルクス主義的に対峙することに。
  • Popperは、歴史は知識の成長によって影響を受けると信じ、予測不可能な容赦のない法律があるという考えに疑問を投げかけた。
  • 「音楽と芸術に次いで、科学は人間の精神の最大で最も美しくそして最も啓発的な達成である」
  • 共産主義とファシズムは哲学的に結びついていると主張し、政治と文化の微妙な相互関係を示した。
  • 第二次世界大戦の最中に書かれたこの本は感情的であることを本人も認めている。
  • 冷戦の中でポパーの「開かれた社会」はマルクス主義を徹底的に否定した。
  • 筆者はこれだけポパーを持ち上げておいて彼の作品は中世の作品のように遠い存在だ、と書く。

www.theguardian.com

 

<PHILANTHROPY DAILY, 2017>

2つ目はPHILANTHROPY DAILY というサイトにあったポッパー批判。

  • ジョージ・ソロスの財団はポパーの「開かれた社会」を目指したものである。ソロスは次の3点を慈善哲学としている。

(1)閉鎖された社会を開くこと、
(2)開かれた社会をより実行可能にすること、そして
(3)批判的思考様式を促進すること

  • ポパーは単純化しすぎており、多様な現象を狭い解釈枠組みで捉えようとする危険を持っている。
  • 全体主義の誤解は、社会の多様性を部族、閉ざされた社会と間違った分析をしている。
  • 個人主義を推進し、伝統的文化を排除することこそ全体主義であり、ポパーの全体主義に関する誤解は批判されるべき。

 

<リバタリアン・アライアンス, 1976>

3つ目のポパー批判はイギリスのリバタリアン・アライアンスにあった批判。筆者のRoy Childs, Jrは何者だろう?ウィキには American libertarian essayist とある。

 

Roy A. Childs, Jr.. "Popper, The Open Society and Its Enemies". Libertarian Review, Sept./Oct. 1976

https://www.libertarianism.org/publications/essays/popper-open-society-its-enemies

 

ポパーがニュージーランドのクライストチャーチにあるカンタベリー大学の籍を置き、この本を書いていたとは驚きであった。ニュージーランドの大学教育に大きな影響を残したんだそうである。我が母校(私には母校は6つある)オタゴ大学にも教えに来ており、愛弟子がいたのだそうだ。
https://canterbury.ac.nz/alumni/our-alumni/uc-legends/karl-popper/

Childs文は多くの部分が前述した2つの批評に重なっているので省略するが、ポパーが自然法を否定していることが書かれている。そして「開かれた社会」は社会が自由である事が主張されているがそれでは甘い、個人の自由が先だ、とまさにリバタリアン。ポパーは自由放任主義を批判しマルクスの資本主義批判を支持。

リバタリアンの思考がわからないと理解できない!

 

<Felix Hathaway, Institute of Economic Affairs、2019>

4つ目のレビューは1955年にハイエクのThe Road to Serfdomを読んで英国に設立されたInstitute of Economic Affairsにあったレビュー。2019年1月に書かれたもの。

ハイエクが「隷属への道」を書いている時に地球の裏側(ニュージーランド)で書かれたのがポパーの「開かれた社会」。ポパーはハイエクの友人でありコレスポンデンとだった。ハイエクとの相違点は社会がどのように社会主義に導かれ、最終的には権威主義、全体主義導かれるのかそれほど関心がない事。ポッパーは共産主義の起源をプラトンに見つける。そしてユートピアの実現には強い中央集権的な規則を求め、それが独裁につながる。ワイマール共和国がナチスを生んだことを言っているのだろうか? ポッパーは社会の悪を修正するには ‘piecemeal social engineering’ が必要でこれが彼が主張する「科学」とは何か、即ち真実が何かはどうでもよくて、どうあるべきかという視点。ここがハイエクと通じる(?)。


以下、5番目、6番目もポパーの「開かれた社会」批判はレベルが前者の4つに比べて全く違うので、別のブログに書きましす。

 

<Felix Cohen,1951> 

5つ目はCohen, Felix S., "Book Review: e Open Society and Its Enemies" (1951). Faculty Scholarship Series. 4365.

http://digitalcommons.law.yale.edu/fss_papers/4365

 

<József Zoltán Málik, 2014>

6つ目は2014年のJornal of Legal Theoryという学術誌に掲載されたもの。著者はハンガリーのJózsef Zoltán Málik博士。"Thinking about Karl Popper and Open Society"(Jogelméleti Szemle (Journal of Legal Theory) Vol. 15: (4), 2014, pp. 58-66 )