やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

「ザ・フェデラリスト」の解説を読む  

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 左からジェームズ・マディソンアレクサンダー・ハミルトン、ジョン・ジェイ

 米国憲法制定に向けた重要な議論である。古典であるが新聞に85回、1年間に渡って掲載されたオピニオンだ。執筆者はハミルトン、ジェイ、マディソンの3名。当時執筆者は名前が伏され「パブリウス」という匿名で書かれた。米国憲法制定の重要な動き、なのだ。

 「自決権」という概念が国家の独立という動きになったのがこの米国とフランスの革命である。どこまで理解できるかわからないが、全く知らない分野なので表面的にだけも勉強しておきたい。

 岩波の単行本があるが、福村出版の1991年版は武則忠見氏の解説が掲載されている。下記の構成による結構なボリュームのある解説。

 

一 「ザ・フェデラリスト」の執筆目的とその環境

二 「ザ・フェデラリスト」の内容

三 「ザ・フェデラリスト」の影響

(1)憲法案批准に対する影響

(2)後世に対する影響

   (イ)アメリカ国民に対する影響

  (ロ)諸外国に対する影響

 

 

一 「ザ・フェデラリスト」の執筆目的とその環境 

  • 「ザ・フェデラリスト」は連邦制を抑制する強い中央政府を目指すものとして当時は反対が大きかった。ハミルトンへの個人攻撃も強かった。
  • 共通の敵イギリスと戦っている時が中央政府の役割が必要とされたが各邦の利益(主に財政負担)が対立すると中央政府の役割も難しくなった。
  • 自給自足の人々には正貨納税が負担であり、終戦後の生活物資不足で輸入増大となり、アメリカ経済は不況におちいり、中央政府が機能せず、麻痺状態に。
  • そこにマサチューセッツ西部で退役軍人が率いる反乱が起こり、ニューイングランドにも拡大。連合会議はこれに対処する力がなかった。これをきっかけに中央政府の強化が進められた。
  • アメリカ独立の理由が「自治権」と「自由」。強力な中央政府はこの2つの権限を抑圧しないか?中央政府を強化するのであれば「権利章典」が必要である。さらに多様化が進むはずの米国に全国一律の法律が作れるはずがない。「ザ・フェデラリスト」はこういう疑問、反対意見に答えていく必要があった。 

二 「ザ・フェデラリスト」の内容

  • マディソン- 広大な国土に多様な経済的・地理的・社会的・宗教的利害対立が自由を維持し、福祉を増強すると十篇で述べる。
  • 36篇あたりから「ザ・フェデラリスト」は有名になり出版が望まれるようになった。
  • 三権分立の原則を侵しているとい攻撃に対しマディソンは51篇で「均衡原理」を展開。これを受けて52−58篇、62−63篇で政府三部門の構成と権限を具体的に説明。
  • ビアードが高く評価したのが67−77篇。67篇は大統領の権限。70−73篇は活力ある行政部と自由の調和。

三 「ザ・フェデラリスト」の影響

(1)憲法案批准に対する影響

  • ニューヨーク、ヴァージニアという重要邦への影響は大きかった。新聞による宣伝方法。支持者は元々憲法支持者だったが理論武装に「ザ・フェデラリスト」は役に立った。
  • 当初は憲法反対者をフェデラリストと呼んでいたが、「ザ・フェデラリスト」が有名になると反対者はアンチ・フェデラリストと呼ばれるようになり、中立派が賛成に回った。「フェデラリスト」という言葉自体が当時人気があったのだ。

 

(2)後世に対する影響

 (イ)アメリカ国民に対する影響

  • 法理論を整然と展開したコメンタリーと違って「ザ・フェデラリスト」は矛盾と繰り返しで、論争的。人間の愛憎、利害の機微、その上に市民政府の姿を政治知識を用いて論じている。
  • 「ザ・フェデラリスト」は多くの編集者の手による版が出版され博士論文も次々と出ている。

 (ロ)諸外国に対する影響

  • 「ザ・フェデラリスト」は1792年フランス語に訳されパリの穏健派に注目された。
  • 独立・革命・クーデターの中南米でも注目され、ポルトガル語、スペイン語にも訳された。しかし中南米の憲法は少数の学者が作成し、為政者の恣意的議会操作に使われるだけ。
  • 国家の成り立ちが違う欧州では参考にならない、とされた。
  • 日本では大政奉還、五箇条誓文作成時に少数の学者が参考にした。孫文も米国の制度は中国にそぐわないと述べた。
  • 19世紀末からの労働運動、第一次世界大戦後の社会主義国と独裁国誕生で「ザ・フェデラリスト」に注目が。
  • ダレス国務長官は諸外国の新任大使に「ザ・フェデラリスト」を贈呈し米国政治の理解の参考にしてもらった。