やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

エルドリッヂ著『沖縄問題の起源』

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 エルドリッヂ博士の『沖縄問題の起源』は十年以上前に一度拝読し、米国の戦略的地域のミクロネシアの事がたくさん書いてあるので、ずーっと気になっていた。

 いよいよ2つ目の博論で「自決権」を扱うことにしたが、自由連合ー信託統治ー委任統治の流れもきちんと議論したい!と気持ちだけは高まるも日本の敗戦から信託統治ー自由連合の一番複雑な流れは、それ自体がエルドリッヂ氏の博士論文にもなる複雑なテーマなので手が出せないでした。

 先週、思い切って読み返した。4章だけ。

 8章からなる同論文の4章「SWNCCでの沖縄に関する議論1945-1947 - 信託統治をめぐる対立と交渉ー」で信託統治の事が、ミクロネシア諸国、すなわち日本の旧南洋領と共に語られている。ここの議論こそが1960年の国連総会でのフルシチョフの演説、即ち1514決議の植民地独立付与宣言に繋がってくるのだ。しかもフルシチョフの演説を読んで改めて確信したのが、フルシチョフの頭にあったのはマーシャル諸島での米国の核実験の阻止であった、ということだ。ここら辺はもう少し複数の情報を確認したいが、70%はそうである。であれば太平洋の米国の信託統治こそ1514決議の植民地独立付与宣言を導きだした、要因の一つ、かなり重要な一つのはずなのだ。

 (マーシャル諸島の核実験は1946年から1958年。これも正式なデータを探さないと。)

 それでエルドリッヂ博士の論文を確認したかった。。

 当然ながら米軍部は日本の旧南洋諸島を米国領としたかったが米国国務省が反対し信託統治になっていった詳細が書かれている。軍部の資料が中心で国務省内部の議論が少ないように思う。これこそ国際法の議論が必要な部分であろう。戦争の結果として併合、即ちあらたな植民地獲得はいけないとしたウィルソンの提案でありベルサイユ条約以来の国際法の概念である。(誰のものでもないlimboな小国の存在を作った元凶)

 「戦略的信託統治」「非戦略的信託統治」と言う概念の国際法上の議論はあるのか?五十嵐元道氏が議論しているかもしれない。ある意味現在進行中の中国の膨脹より恐ろしい米国の拡張戦略だ。

読書メモ「国際信託統治の歴史的起源」 - やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

 

 米国政府のミクロネシア地域に対するコメントがすごい。

「植民地化や搾取を目的としているのではない、太平洋の島々は米国の排他的支配に置かれ、要塞化されるべきである」とか。(62頁)

「多大な犠牲を払って得た太平洋の島々を信託統治の原則に引き渡すことになるであろう非現実的な行為に。。。」(62頁) (米国、結局中国の引き渡しちゃったからね。この言葉インド太平洋軍に教えてあげたい。。)

「侵略者は太平洋島々を奪い、米国を攻撃し。。。」(63頁) (え?いつ侵略したの?攻撃って何のこと?スパイ活動してたの米国だよね。。)

 ここに引用するのは以上にしておくが、米国が「植民」が悪い事だとレーニンのレトリックに完全にやられ、外交安全保障政策の議論が混乱しているのが見えてくる。それが現在の米国が自由連合協定を締結するミクロネシア諸国の現状を導いたのだ。大西洋憲章に国連憲章に「自決権」すなわち植民地はいけないと入れたのはソ連である。英米は入れたくなかった。米国政府はかなりソ連のイデオロギーが浸透していたのであろうか?米国に「植民」のマトモな議論がなかったのでケネディ政権を迎えるまでミクロネシアは放っておかれたのだ。Zoo theoryなんて議論もあった。

 GHQは日本上陸後いち早く矢内原の「南洋群島の研究」を入手しているのだが、何も学ばなかったのか?日本がまともな植民政策をしていた事を知り、不味い、と思ったのではないか。