やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

ダブ・ローネン『自決権とは何か』ナショナリズムからエスニック紛争へ(8)

第3章 基本への回帰

 

 ハンナ・アレントを読んだ後だと、まるで絵本のように優しく感じる。。

自決権を促すアイデンティとは何か、どのように生まれるかが議論されている。個人と社会の関係性についても。

 ローネン自身がこの本の最初で断っているのだが、いわゆる学術論文的に、誰があー言った、誰がこー言った、という文献の引用は一切なく、これまでの現場での経験、思考の経験が自由に語られている。なので、アレントの後に読むと随分ずさんな議論に見えてしまう。

 ローネンはアレントの「革命について」を読んでいないと確信が持てる。自決権の過程にフランス革命と米国革命を彼は上げておきながら、この三章ではフランス革命とルソーしか出てこない。例えば98−99頁だ。

 人間の自由のための枠組みとして自決権の行使が上げられているが、それは事実ではなく、特にエスニックの自決はまちがっている、と。エスニックの自決は一つの過程かもしれないがそれが最終的なものではない、と。

 これこそ、アレントの批判するフランス革命が目指したものである。暴力による分離。そこに生まれた貧困。ローネンが見てきたアフリカのエスニックの自決は社会貧困を解決していないのではないか?アフリカのことをよく知らないので確証はない。

 そこにはアメリカのような幸福の追求も、フランス革命のような公的自由の追求も、理論的(それが米国の建国の父たちがやったようなまやかしであろうとも)はないのではないか?

 この後の4章で、ローネンは、スコットランド人、ビアフラ、パレスチナ人、南アフリカの4つの例を議論している。