名古屋大須ロータリークラブのご招待で講演した内容を掲載します。やっと笹川陽平や笹川平和財団にされたことが話せるようになりました。
スライドも掲載しました。
主催:名古屋大須ロータリークラブ
日時:令和元年12月12日
場所:名古屋東急ホテル
同志社大学法学研究科 早川理恵子 博士
みなさま、こんにちは。本日は貴重な機会をいただき心から感謝申し上げます。
ご紹介いただきました早川理恵子です。
これから30分のお時間をいただき、「パラオの子供たちを麻薬から守れ!」というテーマでお話をさせていただきます。せっかくの機会ですので、最後に5分質疑応答の時間を作らせていただきます。
時間関係上自己紹介は省略しますが、今日この機会をいただく事に繋がったであろう出会い、人生を変えた出会いを一つだけご紹介させていただきます。
この写真の安倍政権の腹心の国会議員から2017年に議連勉強会に講師として呼ばれました。しかも2回もです。海洋議連と島嶼議連です。
写真中央の古屋圭司議員は両議連の会長で、講演の時、私の横に座られてました。ご紹介いただく時に「所用があって中座しますが、」とお話されたのですが、最後まで聞いてくださりさらに質問も多くされました。そしてじっと私の顔を見て「もう一回やってくれ」と言われたのです。
実はその直前に私は26年勤めた笹川平和財団を突然辞めさせられ、笹川陽平から「お前の言うことは信用できない」と言われたばかりでした。
議連は私の講演内容をそのまま政策提言にし、2018年の安倍政権のダイヤモンドセキュリティ、即ちインド太平洋構想を大きく動かす結果となったのです。
まさに地獄の底に突然突き落とされた時に天から神様が現れた感じでした。このことは精神的に私に生きる力を与えてくれました。そして30年関わってきた太平洋島嶼国のことを引き続き学び、情報を発信して行こう、と強く思うようになったのです。この運命の出会いが、今日の貴重な機会をいただく事に繋がっています。
さて、今日は4つのことをお話します。
1 パラオは楽園か?
2 正義、人権はどのように守られているか?
3 柔道の役割
そして最後に
4 私たちにできる事 です。
パラオに行かれた方はいらっしゃいますか? いかがでしたか? 確かにパラオは楽園です。観光客として数日尋ねる限りでは。。
しかし 残念ながら多くの社会問題を抱えています。
スライド左上の写真は、私の友人の麻薬取締官の車が爆破されたものです。今年9月のことです。警察がありますが、人員は少なく、警察官自身が麻薬などの罪に手を出していることが問題となっています。
今日、皆さんに、島社会の闇をどのようにお伝えすべきか悩みましました。
皆さんに馴染み深いと思われるDHLのケースをお話します。
DHLは創業者3名の頭文字をとって命名されています。(Dalsey, Hillblom and Lynn ダルジー、ヒルブロム、リン) その一人がHのヒルボム。写真の右下がLarry Hillblom です。彼はサイパンに住んでいました。なぜサイパンに? 租税回避、税金逃れが目的です。サイパンは日本領から戦後米領になったのですが強い自治権維持しています。その一つが税制度です。ヒルボムの大金はこの島の税制度を自由に差配できるほどの影響力を持っていたのです。そしてそんな彼の趣味が処女を好むことでした。途上国の女性たちが我先にと手を上げたのは残念ながら事実のようです。
ヒルボムは何人かの子供を残して飛行機事故で死にます。その一人がパラオの女性との間に生まれたラリー・ヒルボム・ジュニアです。父親から受け継いた大金は彼をどのような人生に導いたか?麻薬漬けの人生で逮捕を繰り返しています。これが島社会の闇です。
そもそも太平洋島嶼国は楽園だったのでしょうか?
首刈り、人を食べる習慣、徹底的な差別、階級、がありましたし、今でもあります。フランスの探検家ブーゲンビルは1週間のタヒチ訪問で自由で幸せな人々を描いた探検記を書きパリでベストセラーになり、間違った島のイメージを啓蒙家たちに植え付けてしまいましたが、彼があともう1週間タヒチにいれば違う内容を書いたでしょう。
2 正義・人権が守られない島嶼国
今、私は同志社大学で太平洋島嶼国と海洋法を研究しています。
国連海洋法条約で太平洋の島国は広大な海洋資源と主権すなわち独立を得ました。しかし現実は自ら開発、管理できないEEZ、すなわち広大な太平洋の海域が越境犯罪の巣窟、無法地帯となっているのです。
ー 麻薬
ー 人身売買
ー 違法操業
ー 違法移民
ー マネーロンダリング
西太平洋は島の存在のよってEEZで埋め尽くされています。
これがよく比較される太平洋島嶼国の陸地面積とEEZの面積を比較する表です。一番EEZが占める比率が大きいのはツバルです。EEZは陸地の28,000倍あります。次がマーシャル諸島で約12,000倍あります。今日お話ししていますパラオは1200倍です。
世界第6位のEEZを持つ日本は12倍です。
この表は私は作成したものです。人口、GDP 海洋警察の数とEEZの広さの比較をしてみました。
わかりやすいようにお話しします。
まず人口一人当たりのEEZ。 日本はだいたい東京ドーム1つ。パラオは一人につき東京ドーム1000個分もEEZがあります。
次にGDP。日本は1㎢のEEZは約1億円。パラオは4万円。キリバスはたった5千円です。
そして海洋警察の数。日本は一人の海上保安庁の方が担当するのが343平方㎞。パラオは25160㎢。パラオの海洋警察の数、というのはどの数字をとるかなのですが、数日前にパラオ法務省の知り合いに聞いたところ40人はいる、と。それでも15000㎢ですから日本の50倍です。
これでEEZが管理できると誰も思いません。
これは量、数の分析でしたが、質、能力の点はどうでしょう?
日本では一切ニュースになっていないと思いますが、この9月ミクロネシア連邦のヤップ島で悲惨な殺人事件が起こりました。ヤップ島は石貨で有名です。パラオの近くにありあります。中国の第二列島線の上にも位置する地政学上重要な島です。
33歳のアメリカ人法律家の女性がヤップで女性や子供の人権を守る活動をしていたところ逆恨みにあってヤップの島の人、しかも空港消防官という法執行官によって銃で殺されたのです。
この写真はパラオの海と陸の法執行官の方達です。
私は2008年にミクロネシア海洋安全保障事業を立ち上げてこの地域の法執行の現状を見てきました。国の面子があるのであまり表立って言わないのですが、島の法執行能力には大きな限界があります。
法執行官走れません。犯人と取っ組み合うこともできません。成人病、肥満が島社会の問題の一つでもあります。
そして何より「正義感」「人権」という基本的な価値観が貧しい、という根本的な問題があります。ただ、その事を島の人は自ら認識しています。彼らは日本に助けを求めました。海外青年協力隊に柔道指導の派遣を依頼したのです。
3. 柔道の役割
2003年、高野重好さんという日本の青年か海外青年協力隊でパラオに飛びました。ここで彼は柔道という小さな種を植え、それが今どんどん育っています。
私がパラオの柔道キッズに関わり始めた時、一体誰がどのような背景でパラオで柔道を開始したのか調べました。
高野重好さんは神戸のご出身です。ご両親は震災でなくなっています。その時の事を高野さんは文章にされています。1階でご両親が寝ていたのですね。お父さんはお母さんの上になって落ちてくる2階の重さを支えたのだそうです。高野さんが国際協力をしようと思った背景や思想を知って、これは誰かが高野さんの植えた種を育てなければ、と思いました。
私がパラオの柔道キッズを支援するようになったきっかけはまた違ったところにあります。
2008年、ミクロネシア海上保安事業、というのを一人で立ち上げたのです。これは30年間太平洋島嶼国で仕事をしてきた中でもかなり命がけの仕事でした。パラオ、ミクロネシア連邦、マーシャル諸島3つの国の大統領を動かすロビー活動を、これはみなさん誤解されるのですが、誰かに指示されたわけではなく、全て自分の判断で実施してきたのです。
ところが、事業が立ち上がって、国交省、海上保安庁の方達が入ってきた途端に造船利権と天下り利権の事業に成り下がってしまった。この写真の船は日本財団がミクロネシア諸国に供与した監視艇ですが、ほとんど利用されていないのです。何十億円ものお金が日本の造船会社と海上保安庁の天下り先組織に落ちる仕組みを作るために、私は命がけでこの事業を立ち上げたわけではない!
ミクロネシアの方達はバカではありません。この日本の省庁の利権構造と上から目線の態度に頭が来ていた。で彼らは私が頭に来ていることもすぐにわかったようです。島の人たちは人の腹を読むのが上手なのです。
2010年頃でしょうか?パラオ法務省と日本財団、国交省の会議の席で日本側が、先端備品がついた監視艇供与をほぼ押し付けるような協議が行われました。その最中に「ねえ、子供の柔道着を送ってよ」と法務省の女性から話かけられました。
「え?私の娘のがあるよ」と。それがジェニファー・アンソンとの出会いでした。
ジェニファーはうんざりしている私の顔を読んでいたのです。もちろんジェニファー始めパラオの法務省と豪州王立海軍の代表もうんざりしていました。
これがパラオ柔道キッズを支援するきっかけでした。
私が支援して来たのは大したことではありません。古着の柔道着を送ったり、日本来日の際、宿泊先探しやその費用の一部、見栄を張って5万円を寄付したり、またオークランド遠征の時は応援に駆けつけたり。
慈善とか国際協力とか言ったものではなく、私が立ち上げたミクロネシア海上保安事業は、また私が30年関わって来た太平洋島嶼でやりたかったことは、子供達の未来を、島嶼国の未来を支援することなんだ、国交省の利権や笹川陽平の名誉とは関係ない、
と、改めて気づかせもらい、勇気をもらったことなのです。
日本の国交省、海上保安庁の海洋問題に関する能力の限界、はっきりいうと何も知らないことに唖然とする日々が続きました。詳細は今日は省略しますが、あらゆる場面で彼らの尻拭いをさせられて来たのです。ところが彼らにとってはそれが面白くない。2017年突然仕事を失いました。
呆然とする中で、パラオの友人たち、ジェニファーやパラオの外務大臣から何があったんだ?パラオに来い、と言われ訪ねました。彼らは私が一人で全部やって来たことを理解してくれているのです。2017年9月のことです。
この時、30年来のナカムラ大統領から私のホテルに連絡があってランチを一緒にしよう、とお誘いを受けました。
なんと2時間近くもお話をしたのですが、天皇皇后両陛下のパラオ訪問や、天皇陛下との手紙のやり取りの内容まで教えていただきました。その中で私がパラオ柔道キッズの話をすると
「リエコ、パラオの子供達を麻薬から救って欲しい。大麻はしょうがいないんだ。大麻しか収入を得る道はないからね。問題はアイスだ。アイスはだめだ。」
パラオに麻薬の問題があることは知っていました。しかしまさかナカムラ大統領から支援を頼まれると思っていませんでした。それは色々な意味で衝撃でした。
まず国内問題であること。なぜ外国人の私に助けを求めるのか?
相手が大統領経験者あること。しかも現在も大きな権力を持っていること。
そして何よりもナカムラ大統領がペリリューの大酋長であり、ペリリューこそが麻薬問題の中心地であること、です。
日本に帰ってからもしばらく衝撃が続きました。そして麻薬問題解決の方法を探りました。全く知らない分野です。その中で専門家の方から
「麻薬を止めさせようとしてもだめ。麻薬以外の刺激的な活動を提供することよ」とアドバイスいただきました。
その意味で柔道活動は大変意味のあることなのです。そして麻薬啓蒙お絵描きコンテストを企画しました。
それが思いがけない事に発展する事になったのです。
結局このコンテストは一枚も絵が集まらず失敗したのですが、募集のアナウンスを出したところ地元の新聞社から取材が入り記事になりました。さらにその記者は現地取材をしたのです。そして意外な情報が記事に。実はみんな知っていたのですが、誰も公式には語らなかった。
政治家の子供たちが中国やフィリピンから運び屋となって麻薬パラオに持ち込みます。これで小遣い稼ぎができるし、政治家の子供というだけで通関で見つかってもお目こぼししてもらえます。
その麻薬をまず子供たちにタダで与え、中毒にする。今度は売春と引き換えに麻薬を与える。こんな現実が地元の記事になりこの記事を書いたインド人のジャーナリストは脅迫を受けたことを教えてくれました。やはり地元の人は声に出せないのです。
さて、最後の私たちにできることをお話して締めくくりたいと思います。
私が道着を数点集めてパラオに送っていたら、ツイッターでなんと高須院長が手を上げてくれました。院長の支援でいつもは数点の古着の道着が新しい道着20点くらいまとめて遅れました。さらに東京の講道館での研修に高須院長が駆けつけてくれ子供達にお小遣いをくれました。
そこでパラオ柔道連盟という組織はすでにあるので、支援する仲間の集まりという気持ちで「パラオ柔道キッズ支援の輪」というのを立ち上げました。パラオのジェニファー・アンソン、パラオ柔道の始祖、高野重好さん、その他多くの方に参加いただいています。
こういう活動は無理をすると続きません。細く長くをモットーにできることだけやっていきたいと考えています。
今年、最高に嬉しかったのが日本の外務大臣賞をパラオ柔道連盟が受賞したことです。河野外相のツイッターにパラオの柔道キッズに会いに行ってください、とコメントしたらナント本当に河野外相、パラオに行かれました。
今日の講演内容はパラオのジェニファーに相談しながら作成しました。ジェニファーに名古屋大須ロータリークラブのみなさんに何かメッセージはないか聞いたところ
「柔道キッズたちは日本に来たがっています。」
とのこと。
もし今日をきっかけにパラオの子供たちの受け入れや逆にパラオ訪問などご検討いただければ、私も喜んでご協力させていただきます。
ご静聴ありがとうございました。どうぞ残り時間自由にご質問ください。