やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

緒方貞子著『満州事変』読書メモ

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知らない分野の専門書を読むのは冒険だ。

緒方貞子氏の訃報のニュースと共に生前のインタビューがウェブに出てきていくつか拝見した。その中で「最後は勘です。」と緒方さんが言っており、ハッとした。私と同じだ。あらゆる情報を集め、あらゆる議論を終えた後、最後の判断は自分の「勘」なのである。

お会いしたこともないのだが、私は緒方さんが嫌いだった。なぜか?

南太平洋大学の遠隔教育衛星事業をODAまで持って行ったのは私である。その流れでJICAがJapan-Pacific ICT Cnetreを同大学の建設した。かなり立派な建物である。これに緒方さんがJICA理事長の時に難癖をつけたそうである。こんな立派なものはいらない、と。

それで偏見を持って避けていたのだ。

 

緒方さんの『満州事変』は近代史を学ぶ中で良書として何度か耳にしたが読む機会を失っていた。今回隔離生活の中で拝読。新渡戸と絡めて別のブログに感想文を書いたがこちらにもメモしておきたい。

読んだのは岩波現代文庫2016年。酒井哲也氏が書かれた解説が掲載されている。

緒方氏にとって身内の祖祖父犬養毅と祖父芳澤謙吉が満州事変に関わったことがこの研究の動機であることは疑いない。ここから日本は悲惨な運命をたどるのである。酒井氏は「家族が被った受難」と表現しているが、それほど受動的な話なのだろうか?私は関東軍や青年将校達のことは想像もつかないが連盟への対応は、この緒方論文を読む限り不味かったと思う。

この論文が書かれたのは戦後のイデオロギー対立が激しい時でマルクス主義史観の昭和史が主流の時。緒方氏はそのようなイデオロギー闘争から離れて、米国の歴史研究手法を学びながら書かれた、だという。

さらに酒井氏は、リットン報告書が現在のPKOを先取りした内容であったことを指摘する。もちろん緒方氏もそのことに気がついていたであろう。前述した通り緒方氏に偏見を持っていたため同氏の活動はほとんど知らない。しかし、国連や国際組織働かれる中で「もし」あの時祖父が祖祖父がああしていれば、という思いを持たれた可能性は否定できないのではないか?

全くの知らない分野だが「満州事変」が少しだけわかったような気がした。あと数冊、良書を読んでまた緒方論文を再読したら、近現代史が少しはわかるかもしれない。