やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて30年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

矢野暢著『「南進」の系譜』 読書メモ

拙著『インド太平洋開拓史』では「南進」を「サムライの南進」と「漁師の南進」という視点で書いてみた。本来ならば「南進」の言葉自体の定義などもすべきかと思ったが紙幅を理由に割愛。それでも矢野暢著『「南進」の系譜』に目を通しておきたかったがキンドルでは読めず、気になっていた。

数十年前、読んだ記憶があるのだが、内容を全く記憶していない。今回再読してその理由がわかった。東南アジアが中心に描かれており、太平洋島嶼国はほぼ、触れられていない。しかも散文的な内容で、東南アジアに出て行った人々の証言のような話が多い。学術論文ではない、と思う。資料の集め方も「何を基準に?」と疑問に思った。

確かかなり話題になった本だったように思うが、こういう内容の方が一般読者は読みやすいのだろうな、と思った。

「南進」とは植民のことだが、人口問題や国際問題、国際法にも一切ふれておらず、新渡戸、矢内原を読んで来た自分には全く物足りなかった。

 

矢野氏は「南進論」をイデオロギー的な解釈であると議論し、「南洋関与」と分けている。

それから「からゆきさん」のことも多く描かれており、シンガポールにいた千人の日本人の9割9分が娼婦であったと。そして意外なことに福沢諭吉がこの存在を認めていることも指摘している。

拙著では編集の和田さんからの指示でどんどん削った箇所があって、「抵抗すべきだったか」と悔やんでいる箇所がある。これらのからゆきさんなど移民組は何も強制されて南進したのではない。ましてや南進した漁師もサムライも南に夢と未来を求めたのだ。その背景には明治になって急増した人口問題がある。

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新渡戸、矢内原は人口問題と植民を真剣に議論しているのに南進論、植民地論、侵略論等々の中で日本の人口を議論した論文はあまりみない。

特に沖縄の人口だ。

矢野氏の本には「歴史の歪曲といえば、あと一つ、だいじなことがある。」という書き出しで沖縄県人の南進がほとんどの人が知らないとある。ダバオのマニラ麻開発は7割が沖縄県人であったそうだ。南洋群島も6割が沖縄の人で奄美、八丈島、そして日本領だった韓国が続いた。南洋群島の漁師、すなわち海を開拓したのはほぼ全員が沖縄の漁師だ。帝国主義の主導者たちは沖縄の人であった。

昭和16年に安里延著『沖縄海洋発展史』という大著が、普及版の時は『日本南方発展史』と名前を変えて出版された、という。

 

矢野氏はこの本を出した4年後に『日本の何曜史観』という本を出している。こちらを今読み進めているが学術論文のレベルである。なにより私が書いてみた「サムライの南進」を支持するような「七人のサムライの南進」の章まである。