やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて30年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

BBNJ協議における小島嶼開発途上国の影響力 — 開発国際法の応用 (試論)

BBNJ協議における小島嶼開発途上国の影響力 — 開発国際法の応用 (試論)

2018年10月11日 早川理恵子

はじめに

  「国家管轄権を超える区域の海洋生物多様性の保全及び持続可能な利用に関する国連海洋法条約の下の国際的な法的拘束力のある文書の作成」を求めた決議69/292 が2015 年6 月19 日に採択され、その準備委員会が2016年3月から2017年7月まで計4回開催された。 そして政府間会議が2018年9月に開催され、2020年前半まで計4回開催される予定である。

 国家管轄権外区域の海洋生物多様性(Marine Biological Diversity beyond Areas of National Jurisdiction: 以下BBNJと表記)という新たな海洋秩序の協議、実施協定の形成過程で小島嶼開発途上国(Small Island Developing States:以下SIDSと表記)は数の上で、また広大な海洋、即ち国家管轄権の範囲である排他的経済水域(Exclusive Economic Zone: 以下EEZと表記)に囲まれた主権国家として影響力を持っているように見える。なお国連海洋法条約(以下UNCLOSと表記)形成過程とこれらSIDSの関係は別の章で詳述する予定である。

 

 本稿では試論として研究対象とする太平洋島嶼国も含まれるSIDS及び小国の人口と国・地域数の統計作業、続いて関連する理論と思われる「開発の国際法」を整理しながら議論を試みたい。

 

 本稿は次の3部から構成される。1つ目は統計作業を行うにあたり小国の定義を模索したところ実に多岐に渡る議論があった。比較的最近の3つの論文、Paul Sutton (2011), Matthias Maas (2009), Long T. (2017)を中心にその議論を概観する。結論を先に書くと小国の定義は確定していない。2つ目は国連の人口データを使用した統計作業、及び結果をまとめる。最後に位田隆一教授の「開発の国際法」に関する論文を中心に途上国、小国が国際法の中でどのように議論されてきたか外観しつつ、統計結果の分析を試みる。位田教授の1974年から2015年の40年に渡る8本の論文は、70年代即ち途上国が次々と誕生し開発を巡る国際法への期待を持った時代から、2015年のその限界を指摘した比較的悲観的内容へとの変遷が読み取れる。これも結論を先に書くと国家平等原則は途上国に対して当初から認められていたわけではなく、先進国と途上国間の「規範の多重性」も当初から多くの疑問や矛盾を抱えていた事が指摘されている。

 

<参考文献>

小国の定義に関する論文

Professor Paul Sutton (2011) The Concept of Small States in the International Political Economy, The Round Table: The Commonwealth Journal of International Affairs, 100:413, 141-153, DOI: 10.1080/00358533.2011.565625 

To link to this article  http://dx.doi.org/10.1080/00358533.2011.565625

 

Maass, M. (2009) The elusive definition of the small state. International Politics 46(1): 65-83.

 

Long, T. Int Polit (2017) 54: 144. https://doi.org/10.1057/s41311-017-0028-x

 

UNCTAD. (2004). Is a special treatment of small island developing States possible? United Nations, New York and Geneva.

 

開発の国際法関連論文

位田隆一 1974 国際経済機構における実質的平等の主張(一)-国連貿易開発会議の成立―。 法学論叢 第96巻第3号

 

位田隆一 1975 国際経済機構における実質的平等の主張(二)・完―国連貿易開発会議の成立―。法学論叢 第97巻第3号

 

位田隆一 1979 新国際経済秩序の 機構的インプリメンテーション「岡山大学法学会雑誌」29巻1号

 

位田隆一 1989 開発の国際法における発展途上国の法的地位 法学論叢116 巻1-6 号

 

位田隆一 1989 『開発の国際法』理論―フランス国際法学の一端― 日仏法学 No. 16 

 

位田隆一 1991 国際連合と国家主権―国際機構の実効性と国家主権によるコントロールの対峙― 国際法外交雑誌』 第90巻(第4号) 435-481

 

位田隆一 1998 「国際貿易体制と発展途上国」国際問題463 号

 

位田隆一 2015 グローバル・ジャスティスにおける「開発の国際法」の意義. ―「実質的平等」の展開と到達点― 世界法年報  34, 164-187

 

 西海真樹 1992 開発の国際法における 「規範の多重性」論 世界法年報12 号