やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

漁業の仕組みがわからないアメリカ

米軍のインド太平洋への進出が目覚しい。その背景には中国の軍事的脅威があるのであろうが、その中国の軍事的脅威の中に違法操業船も含まれる。海上民兵Little Blue Menの存在もある。が、それ以外の違法操業がピンからキリまで山ほどある。

アメリカ合衆国税関・国境警備局が中国人が運航するロングライナー「Hangton No.112」の乗組員が国際基準で強制労働と定義される状況に置かれていたという信頼できる証拠があると判断し、米国の港での出荷を停止する命令を出した。この漁船はフィジーの旗で運営されていた。太平洋島嶼国が意外にも違法操業に加担している側面があるのだ。

 https://apnews.com/article/business-environment-and-nature-global-trade-89048cd53746f5d1491d18293da3dbb7

 

ところが8月6日の豪州、ABCのニュースでは、上記の「信頼できる証拠」に疑問を投げかける報道があった。米国は「グリーンピース東南アジアとインドネシア移民労働者組合が2019年12月に発表した、太平洋の漁船団における虐待的な状況を記録した調査報告書」だけを参照にし、肝心のフィジーにある漁業会社には事情聴取をしていない。

そして米国の違法操業取締りはオバマ政権下で策定された規制が影響しているとの専門家のコメント。米国の厳しすぎる規制が、米国水産業を弱体化している話も聞いている。

米国が制裁を課した漁船にはフィジー人、韓国人、中国人、インドネシア人が乗船。フィジーにある漁船会社の担当者は2018年にインドネシア人の漁師と問題があったが、解決し本人はインドネシアに帰っているという。問題があるとすれば、インドネシアにある漁師の人材派遣を請け負う会社であろう、と。さらに制裁対象となった漁船には、独立した「オブザーバー」も乗船しており、違法行動があれば報告されているはず。

https://www.abc.net.au/radio-australia/programs/pacificbeat/fiji-fishing-company-rejects-us-forced-labour-accusations/13488098

 

HANGTON 112はWCPFC-中西部太平洋まぐろ類委員会にも登録された漁船である。

HANGTON 112 | WCPFC

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ナウル協定が推進する違法操業

漁船がなるべく安く魚を取らなければならない原因を太平洋島嶼国が作っている背景もある。漁業ライセンス料の値上がりだ。ナウル協定という枠組みで、強硬な値上げがこの10年行われてきた。

Vessel Day Scheme という。2012 年に 5,000 米ドルだったのが現在 10,000 米ドルを超えている。この負担を漁業者はどこで解決するのであろうか?漁船の運営にはお金がかかる。法治国家の日本では人件費や各種保険、漁船管理に関する費用を削減することはできず、自ずと魚価にナウル協定の影響が出て来る。しかし、上記のようなインドネシアのケースでは人件費をいかようにも抑えることが可能なのである。そして市場では日本漁船が競争できないような魚価で販売できる。

 

漁業も、違法操業も限りなく複雑である。最近特に米国の違法操業取締りに疑問を声を現地がから聞くことが多い。少なくとも米国には、シーシェパード、グリーンピース、ピュウと言った現地では評判の悪い市民団体の情報だけに頼らないことをお願いしたい。