やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

パラオ海洋保護区と国際法(1)国交省官僚の無知と無責任

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2020年1月に施行されたパラオ海洋保護区、Palau National Maritime Sanctiary (PNMS)は前大統領、トミー・レメンゲザウの発案で制定された。私はその案を本人から最初に聞いた一人である。

レメンゲザウ氏は、副大統領としてナカムラ大統領を1993年から支え、2001年から2期8年大統領を務めた。ナカムラ路線の継承であるが、一つだけナカムラ大統領が大きな反対を示したのが環境保護政策である。その中でもパラオEEZをほぼ全域商業漁業禁止とするパラオ海洋保護区はナカムラ大統領が強く反対していた。ナカムラ氏が水産業も経営してたことが影響していたであろう。

このパラオ海洋保護区は、国際法上も多々疑義のある内容で、これがパラオ議会を通過し、施行されてしまった理由は多々あるが、主要な理由は日本財団・笹川陽平の海洋に対する無知から生まれた巨額の助成資金が背景にある。私は事業担当者としてこれらの愚行を目の前で見てきたので記録として書いておきたい。

 

2001年に大統領となったレメンゲサウ氏が台湾の陳総統とのマネーロンダリングなど不正が行われていることは広く国民が知ることになり2期で終了。2009年トリビオン大統領が選出された。しかし国民の期待を裏切ってトリビオン政権は一期で終了した。シーシェパードとの海洋監視協定や信託基金の運営方法、その他多くの問題を発生させた。

そしてレメンゲサウ政権が2013年復活したのである。

当時、2008年に私が立ち上げたミクロネシア海上保安事業はシーシェパードの件もあり微妙な状況であったため、再選されたレメンゲサウ大統領を早速パラオまで訪ねた。私はレメンゲサウ氏の自宅に呼ばれ、この全EEZ保護区政策を聞かされた。

当時、漁業政策を担当するパラオ専門家、ナウル協定、WCPFC、FFA、PIFの関係者、そして隣国のミクロネシア連邦、マーシャル諸島の政府関係者も全員が反対する内容であった。

2008年に私が立ち上げたミクロネシア海上保安事業は国交省・海保、そして海洋政策財団の元国交相官僚、寺島ひろし氏のアドバイスも受けながらであったので、当然国連海洋法条約にも疑義のあるEEZを閉じるという海洋保護区案は反対されるか修正がかけらるのだろう、と期待していた。しかし、海洋問題を何も知らない同じく国交省の元審議官羽生次郎氏と笹川陽平は、数十億円の資金を動かし推進したのである。

私は寺島氏に「なぜ、止めないのですか?」と何度も聞いた。彼の答えは「言っても聞く耳もちませんから。」と無責任とも取れる回答であった。日本の国交省官僚の無知と無責任な判断が海洋に関する国際法を歪めたのである。

このパラオ海洋保護区を支援したのが欧米の環境NGOであるPEWなどである。彼らはパラオ海洋保護区運営のための海洋監視や、科学データには一切関心を示さなかった。信託基金につながる海洋保護区制定自体が彼らの目的なのだ。なぜか?それは租税回避というお金持ちのための金融商品となるからだ。これを始めたのがイギリス人海洋学者のグレッグ・ストーンだ。キリバスの海洋保護区創設者である。