やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

『与那国台湾往来記』松田良孝著、読書メモ

4月29日に私が安倍総理に教えたインド太平洋の2つの海を実際に交えたオーストロネシア語族の講演会を、与那国で企画している。

なぜ与那国なのか?

オーストロネシア語族は台湾原住民のことであり、すぐ隣の与那国は日本の最西端ではなくインド太平洋の中心なのである。これは絵空話ではなく学術的研究が百年以上されている話なのだ。世界的考古学の権威お二人をお招きする。

さて、私がこのような企画を思いついたのが1月に久しぶりに与那国を訪ねたからである。自衛隊が真っ昼間、戦車を公道で移動し、自衛隊誘致に動いた前町長外間氏でさえ「なし崩し」との表現で自衛隊の展開に警鐘を鳴らしている。

中国の脅威は確かにある。しかし同時に東シナ海の安寧と安定を模索する努力も必要。数千年前の人類の海洋秩序に、安倍総理も書いている海洋コモンズを訪ねてみようと・・

 

さて、前置きが長くなったが、与那国と台湾を結ぶ歴史は長くて深い。今回講演会を実施する与那国交流館DiDiを訪ねた時『与那国台湾往来記』松田良孝著を購入した。台湾が日本だった時、2.28事件の時、戦後の密貿易。話は八重山でたくさん聞いていた。今回文書で初めて読む。日本統治の台湾は日本本土よりも栄えていたのである。与那国は百キロ先の台湾に日本を見つけ、人の交流が一気に盛んになる。特に遠洋漁業だ。台湾に漁業を教えたのは九州、そして沖縄の人々であった。

 

印象深かった箇所が3つある。

本書164頁:台湾を襲った連合軍の飛行機が機銃掃射で狙ったのは台湾原住民であった。台東高校の学生だった与那国の藤子さんの証言が書かれている。なぜ原住民だったのあろうか?なぜ隠れなかったのか?

 

216頁:与那国も空襲を受けている。1944年10月13日。久部良で106戸が焼失。それだけではない漁船が爆弾で破壊され亡くなられた。なぜ漁に出たのか?兵隊が魚取りに行かせたとの証言もある。その後も爆撃は続き洞窟に避難。そこではマラリアが待っていた・・

 

256頁:2.28で多くの台湾人が沖縄に逃げたことは聞いてきた。その中には台湾のヤクザ者もいて、断ると命に危ないと脅かされ、与那国の漁師が連れて行ったという生々しい話がある。その後も慕われたと・・

 

306頁:最後は密貿易だ。戦後与那国は密貿易で栄えた。何を貿易したのか?米軍の物資である。それは米軍と連んで盗むのだ。その手法が生々しい。鰹節で米兵隊相手の女性を探す。女性が兵隊の相手をしている時間に物資を盗む。鰹節が売春と軍事物資を交換させたのだ。

 

与那国だけではない先島の自衛隊誘致。これを中国封じ込めのフェンスとトンデモないことを言う、安全保障専門家の大学教授がいる。100年に満たない歴史も語り継ぐ本書は貴重である。