やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

「生命線」と糸数町長のスピーチ

与那国の糸数町長が東京都内で開催された会議に出席。そのスピーチが話題を呼んでいる。

先日開催した「やしの実大学」の後援者としてご協力いただいており、批判という立場ではなく「生命線」を使用する問題をお伝えしたい。

多分だが、糸数町長は「生命線」を「ライフライン」程度の理解で使用されたのではないか。実は安倍総理も「物流の」という前置きをして「生命線」と続けた。この時は豪州が対象だった。

私は過激に反応した。

「生命線」という言葉は、ナチスの「生存圏」Lebensraumに由来するのである。その周辺の論文を読み漁ったことがあるが、きちんとまとめていないことを反省している。

有名なのが矢内原・蠟山の論争だ。矢内原が「思想言論態度は自殺的矛盾」と激しく批判した蠟山の「南洋委任統治問題の帰趨」(改造1933年5月号)である。これに関しては下記のブログを読んでいただきたい。

 蝋山が「生命線」という言葉を使い始め、それはどうやらドイツでの影響を受けてである、という論文を呼んだ記憶があるが思い出せない。改めてウェブ検索したところ、

「ファシズム外交の論理と国際認識」 安部博純 国際政治 1974 年 1974 巻 51 号 p. 109-128

に書かれていた。

”ナチスの生命圏ー命令圏、ヨーロッパの新秩序に照応するのが満蒙生命線ー東亜新秩序ー大東亜共栄圏という一連のイデオロギーである。” (p. 115)

日本とナチスが違う点は日本人は混血人種である事を基盤していること。共通するのは独善的な武力をもちいた世界再分割を目指した点は共通する、と安部は指摘する。

安部論文で興味深いのが、18世紀の近代市民社会のラディカルな否定を目指したファシズム政治がニヒリズムに辿り着く、という論の展開であるがこのブログには直接関係しないので、詳細は書かない。

 

台湾が生命線、という表現はネトウヨも時々使っているのを見かける。安倍総理は「物流の」と断って使用したが、「生命線」は軍事力による、支配的な大東亜共栄圏のイデオロギーの強い言葉であり、ナチスの生存圏、Lebensraumに照応している、という歴史的事実は広く知られるべきであろう。