やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

「日本軍国主義の国際法論」松井芳朗 読書メモ

インド太平洋構想とアジア主義の関連から始まって、大東亜共栄圏、そして大東亜国際法の存在まで辿って来た。この大東亜国際法は戦後ほとんど研究されていない中で、あの、自決権研究の権威松井芳朗先生が70年代に論文を出している、とういう。

東京大学社会科学研究所の事業で「ファシズム期の国家と社会」研究の成果である。

8巻中の第4巻が「戦時日本の法体制」で、その中の7章に松井先生の論文「日本軍国主義の国際法論」が掲載されている。満州事変を中心に議論されている。

 

興味深かったのが国際連盟の中で、日本の満州事変に最後まで英米は理解を示したが、決定的な批判をしたのが南米の小国であったことの詳細が書かれている。この件は新渡戸が述べている。新渡戸は中国の特殊事情を知らない南米の小国が数の力で日本を追い込んでいったことを批判的に書いていたと思う。

「中国の特殊事情を知らない南米の小国が数の力で」

ここは今もそのまま通じる状況だ。小国は世界情勢や国際法に通じていない。例えば中国政府の歴史的九段線権益を支持したバヌアツ政府。一体どのようにして中国の歴史的立場を調査したのであろうか?

もう一箇所。ナチスを法的に支援したカール・シュミットの国際法論が日本にも影響を与えた箇所が書かれている。批判も多かったようだ。立作太郎などは「支離滅裂」と批判している。

松井先生と私の歴史認識が違う箇所も多々ある。

例えば、ナチスとソ連の国際法を全体主義の国際法論として議論されていたことがあるが、松井先生は歴史がこの2つの国際法論が全く違うものであったことを証明した、と書いている。ナチスとソ連が同じ、という感覚は私の江崎論文を中心とした共産主義、暴力革命の認識に一致する。

この論文には満州事変に関連して横井喜三郎氏の名前も出てくる。軍部を一人批判した横井を松井先生は絶賛している。満州事変について私は知らない。そういえば満州事変について亡くなられた緒方貞子さんが本を出している。これも読んでみたい。