やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

アメリカの新アジア太平洋戦略

 岡田外相はクリントン長官に会いにハワイへ行ったが、クリントン長官は岡田外相に会うためにハワイを訪れた訳ではない。

 ハイチ地震でキャンセルとなったが、パプアニューギニア、オーストラリア、ニュージーランドを訪ね、米国のアジア太平洋への再コミットメントを示しに行ったのである。

 

 1月中旬、ハワイ出張をさせていただいた。東西センターの島嶼国担当者、NOAA太平洋事務所の幹部、NOAAの下部組織である海洋監視組織PacIoos, USコーストガード、そしてハワイ州初の女性議員Jackie Young博士等に会うことができた。全員が口を揃えて米国はアジア太平洋新戦略を進めている、とのことであった。

 

 2010年1月12日、岡田外相との会談同日、クリントン長官はハワイ大学マノア校にある東西センターで歴史的なスピーチを行った。

Clinton, H. (2010) “Remarks on Regional Architecture in Asia: Principles and Priorities,” East-West Center, Honolulu, January 12

 

 スピーチではオバマ政権がアジア・太平洋の経済、安全保障、特に軍事的協力関係を重視しつつ、マルチ・バイの対話と協力を通し、政府だけでなくNGO、民間の役割も重視し、多角的且つ活発に行動してきたし、今後も強化して行く事を述べている。

 「アジア太平洋」というと島嶼国はいつもオマケ的存在であるが、スピーチには「私はこれから太平洋島嶼国とオーストラリア、ニュージーランドを訪ねる」と述べており、米国の新戦略で島嶼国はオマケでないことがわかる。

 

 先にご報告した2006年キャンベラでのアーミテージの発言とは対象的だ。(*)クリントン長官は昨年4月にも軍事政権のフィジーに対し特殊な事情を考慮すべき、と同情的なコメントを述べている。選挙を約束通り実施しないフィジーに対し豪・NZが制裁を強化していた時期である。同じ長官のコメントの中でアンタッチャブルな西パプアの問題にも留意しなければいけない、と述べている。昨年は米領サモアの津波災害もあった。南太平洋に米領があったことを始めて知った米国民もいたのではないか?

 

 2011年のAPEC開催をハワイにすることをオバマ大統領が昨年12月に発表したことも米国のアジア太平洋へのメッセージである。APEC事務局は50年前東西対話促進を目的に設立された東西センターが勤める。東西センターはオバマ大統領の母親が博士論文を書いたところで、大統領の子供のころの遊び場所でもあった。ハイワ州もまた州に格上げされて50周年を迎える。アラスカとハワイは白人がいないことを理由に、即ち人種差別によって州への格上げが議会によって反対されていた。

 

 笹川太平洋島嶼国基金は遠隔教育事業(ハワイ大学)や遺跡管理人材育成事業(ビショップ博物館)でハワイとのネットーワークを築いてきた。米国の中で太平洋島嶼国研究が盛んなのがハワイである。次がオレゴン大学だ。今回は海洋問題もテーマに訪ねたがハワイは広大な太平洋の海洋研究と海洋監視活動の拠点でもあった。(詳細は後日ご報告します。)

 

 クリントン長官のスピーチにあるように今から50年前、1959年のアジア太平洋をイメージすることすら難しいほど、今のアジア太平洋は変わっている。嘗て、ミクロネシアで戦った米豪と日本が、民間団体の笹川平和財団が進めるミクロネシアの海洋安全保障事業で協力の一歩を進めようとしている意味を改めて考えた。

 

 

*“I’ll freely admit that no Americans understand the South Pacific. And we leave that to you. Be glad to help you in any way you see fit. But we just don’t understand it. Perhaps it’s a good thing we don’t understand it – we keep our meddlesome hands off it and leave it to you.” Armitage R 2006. Answer to questions. Menzies Research Centre, Parliament House, Canberra, 6 November.

 

(文責:早川理恵子 2010年2月2日)