やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

島の王道― Communication支援

「島の王道― Communication支援」

 「島に必要なのはTransportation, Communication, Education。島嶼基金は王道をやってきたんじゃないか。」

 昨年5月、マーシャル諸島を初めてたずねた羽生会長の言葉。今でも忘れられません。

 この中でも、Communicationは特に基金が力を入れてきた分野です。

 ケネディの遺産、そしてダニエル・イノウエのブレインチャイルドであるPEACESAT, カミセセマラ首相から笹川会長に要請のあったUSPNet への基金の支援は以前ご紹介させていただきました。

 この他に基金は、2002年から8年間ICT政策関連事業(総額約4千7百万円)も実施してきました。

<太平洋島嶼国の情報格差克服に向けて>

 2002年から2005年の4年間は、基金内にPacific Islands Digital Opportunity研究会を置き、島嶼国のデジタルディバイドの調査、研究、提言活動を実施。主要な成果として下記3点があげられます。

1.テレセンターの普及

2.WSIS世界情報社会サミットへの提言。

3.WINDS衛星、首相官邸が進めるアジアブロードバンド計画への提言。

1.テレセンターの普及

 離島の多い島嶼国は、各家庭が個々に電話回線を持つ事は経済的に困難です。村内に共有の電話、インターネット施設を設置しデジタルディバイドに対処しようとする動きです。4,5年前はまだ電話回線のインフラが整っておらず、ソロモン諸島ミクロネシア諸国の一部を除いては計画倒れになってしまいました。しかし先月訪ねたバヌアツでは、電気通信の競争が昨年導入され、テレセンター計画が復活したところでした。

2.WSIS、世界情報社会サミットへの提言

 国連本部とITUが共催、NGOも巻き込み、世界的な情報格差を埋めることを目的に2003-2005年、世界各地で一連の会合が開催されました。2003年1月に東京で「アジア会合」が開催されましたが、国連大学、UNESCO, オーストラリア・島嶼国のNGOと協力し、太平洋島嶼国サイドイベントを開催。結果「アジア会合」は「アジア太平洋会合」に名称が変更され、決議文には島嶼への特別な配慮が重要であるとの文言が入りました。

3.WINDS衛星、首相官邸が進めるアジアブロードバンド計画への提言。

 日本の首相官邸が進めるe-Japan戦略の国際協力分野に「アジアブロードバンド計画」があります。パブリックコメント募集の際、同計画を太平洋島嶼国へも応用することを提言。結果、最終案に盛り込まれました。

 昨年、超高速インターネット衛星WINDSが打ち上げられましたが、太平洋島嶼国もこの実験に参加できることになりました。但し、詳細はここで述べませんが、島嶼国にとっては非常に使い勝手の悪い環境なのが残念です。

ミクロネシアのICT制度改革>

 2006年から2008年の3年間は、ハワイ大学に助成する形で、ミクロネシア3国のICT制度改革を支援してきました。早い話しがNTT解体のような内容です。

 太平洋島嶼国は独立と同時に旧宗主国信託統治委任国の電話通信会社に数十年という長期の独占免許を出し留まってもらいます。小国の新政府に政策を管理する能力はなく、現実は旧宗主国の電話会社に牛耳られ「あまねく平等に」などと言ったユニバーサルサービスも皆無。世界一高い電話通信料が設定されています。

 他方、世の中は無線やデータ圧縮技術が向上し、“ラストワンマイル”というネットワーク構築費用の課題も解消されつつあります。残念ながら島嶼国の既得権を得た電気通信会社は国民へのサービス向上を怠ってきました。

 助成事業では、ミクロネシアの政府、教育、医療関係の政策担当者を集め、ICT政策について協議。その中で、米軍のミサイル基地があるクワジェリンとグアムを結ぶ海底通信ケーブルの事業が、国民や政府に報告されることなく、通信会社単独で進めていたことが判明。電話会社の情報開示責任が現在ミクロネシア連邦議会で協議されています。

 この海底ケーブル事業について説明します。クワジェリンにある米軍基地は、現在衛星を利用しているため受信に0.5秒の遅延が発生。これではミサイル迎撃には間に合わず、海底ケーブル施設計画が2000年頃から協議されてきました。同ケーブルの「軍民両用」が検討され、独立した4本の光ケーブルの内2本を米軍に2本を民間に提供する計画となっています。

 マーケットの小さい島嶼国が独自に高額な海底ケーブルを施設することはほぼ不可能。米軍との共用ケーブルは千載一遇のチャンスなのです。基金の支援は終了しましたが、このチャンスを最大に活すべく制度改革は継続しており、日本政府へのODA申請も昨年提出されています。

 昨年、羽生会長から、「海上保安についてミクロネシア3国の合意を得て欲しい。」という、とんでもない指示をいただいてから、自分でも驚くほど早く事が進みました。この背景には、「ICT制度改革」作業を通して築いたミクロネシア3国政府の基金への信頼があったと思います。

以上。(文責:早川理恵子 2009.8.2)