やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

信頼構築ーチェメニ教授との面談

信頼構築ーチェメニ教授との面談

 

 2010年9月16日から23日までオーストラリア出張を実施した。

 

 最初の訪問地はウーロンゴン大学だ。

 同学内に設置されたAustralia National Centre for Ocean Resource & Securityの所長、マーティン・チェメニ教授との面談。私が新たに立ち上げる「海洋安全保障の新秩序構築研究会」の委員を御願いすることになった。

 海洋政策研究財団の寺島常務の御紹介で、既に二つ返事をいただいていたのだが、羽生会長より「行って、話してこい。」という指示であった。

 

 相手は世界最高峰の海洋問題専門家。こちらは海洋問題に接して2年も経っていない。30分くらいであればどうにか誤摩化せるであろう。しかも飛行機の中でしかつかまらない、と噂される程の超多忙人物である。

 事業計画や背景等々を一通り説明しご意見を伺って、

「それでは今後ともよろしく、失礼します。」

と立とうとしたところ、

「何を言ってるんですか。これからランチをいっしょにして、大学やウーロンゴンの町を案内します。夜は私の家族と夕食ですよ。」

 一瞬頭が真っ白になった。しかし、断る理由が見つからない。ここは腹を決め、自分の無知無学、貧困なる精神をすべて曝け出すしかない。

  チェメニ博士は1994年ごろから太平洋島嶼国に関与してきた。ソロモン諸島にあるForum Fishries Agency (FFA)にも籍を置かれた。FFAは長らく米国の中古衛星を利用した通信ネットワークPEACESATのユーザーであった。PEACESATの現状に興味を示された。自分が20年以上関与してきた情報通信の話であればいくらでも話せる。

 寺島さんのブログを普段読んでいた事も役に立った。長野の山荘の話になり「この夏はお忙しくて、草刈が大変だったようです。お野菜もたくさん植えているようですよ。」とまるで行ったことがあるように説明してしまった。

  実はこの出張が始まると同時に、ミクロネシアのある友人からメールが届いた。日本財団、笹川平和財団が進める当該地域の海上保安案件からある国が離脱するかもしれないという内容だ。自分が本案件を立ち上げたのだが、昨年中頃から関与しないでよい、と言われている。

 2008年5月、羽生会長の発意で始まった本事業は、私が動いてあっという間に3国大統領の合意が得られた。その背景には20年以上培った私とミクロネシア諸国との信頼関係がある。

 「信頼」というものがこうも簡単に壊されるものかと、胸に熱い火箸を押し付けられたようだった。

 

チェメニ博士から

「あなたがこの研究会の事務局をするのでしょう?関係を今築いておかないとうまく進みませんよ。」

と言われた時、ハッとした。

 今潰してはいけない。ミクロネシアの方は羽生会長に報告し信頼構築の修正を進めている。

  チェメニ博士はガーナ人である。午後はANCORSのセミナーに参加。ガーナ海軍所属で博士の下に勉強にきている学生が「海洋安全保障協力」について発表した。ギニア湾を囲む沿岸諸国がいかに協力できるかとい内容だ。英語と仏語の壁もあり、太平洋よりも困難な状況とのこと。

 「海洋安全保障の新秩序構築研究会」の方はアジア太平洋を中心に議論する予定であるが、地域は限定していない。インド洋も検討している。チェメニ博士からはアフリカにも応用できるかもしれません、とコメントいただいた。