やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

Posse Comitatus法 - 軍事力の在り方

Posse Comitatus法 - 軍事力の在り方

(Posse Comitatus: 元々は森に巣くうアウトローや外部からの侵略、犯罪者を取り締まるための臨時召集した義勇団のこと)  

米国のコーストガード - USCGが軍隊と別れているのが特殊。しかし有事の際はUSCGは軍隊の指揮命令下に入る。それに比べ日本はコーストガードと軍隊が明確に別れていてもっと特殊、という説明をウーロンゴン大学ANCORS所長のチェメニ教授から受けた。  

米国の特殊な事情、というのはどうやら南北戦争直後に制定されたPosse Comitatus法があるせいらしい。軍事と非軍事を語る時にこの概念が重要そうなので、ザクッとメモしておきたい。  

”Posse Comitatus”というラテン語はヨーロッパで古くから使用されていた。PosseはForce。ComitatusはCountry. 軍と警機能がまだ分離されていない時代だ。 南北戦争後の社会秩序を回復するに当たり、軍事力の使用を禁止したのが1878年に可決されたPosse Comitatus法。USCG を除く陸海空軍と海兵隊に適用される。軍事機能を文民分野に使用してはいけない、という法律である。  

英国には沿岸警備隊があるが、海上警察権はなく、海軍に法執行権がある。海軍が法執行権を実行する場合はcivil lawに従う。これをMansfield Doctrineというのだそうだ。 しかし米国のPosse Comitatus法も、過去30年間現実の脅威―テロ、違法移民、麻薬問題等―に対処するため軍隊が動員され、殆ど無意味な、消滅しかかっている、伝説的な存在になりつつある、という。(Trebilock, 2000) と同時にTrebilockはPosse Comitatus法の意味は、文民法に軍事機能を介入させないという範囲で失われていない、と主張する。問題は、過去30年大統領命で「例外処置」が立て続けに発効されたことによってその意味が失われ、またその事を誰も真剣に指摘していないことが問題である、と言う。  

他方、英国式を取るオーストラリアはどうか?  広大な沿岸と海域、さらにはアジア太平洋諸国までの海洋安全保障を担おうとしているオーストラリア王立海軍は、日本の海上保安庁と同程度の人員である。 現労働党政権が野党時代に、正式なコーストガード設立案を掲げていたが、与党になったとたん立ち消えとなった。そのかわりCustom and Border Protection Serviceが国境警備を行う。実際は国防省始め関係機関の寄せ集め、Whole government approachで形成されている。  アジア太平洋で多くの途上国支援を実際に行ってきたオーストラリアは、逆に、そうした国々での法と秩序の形成に対処するには、軍事機能には限界があることを認識し、民軍の協力を促進しようとしているようだ。  この豪州の軍隊が持つ、軍事機能、法執行機能、外交機能を分析する博士論文が執筆されつつあるので楽しみだ。

以上、Posse Comitatus法の解釈と実際の運用が、この10月に開始した海洋安全保障研究会の鍵になりそうなので、引き続き勉強をしたい。  

次回は、日本の海上保安庁を絶賛したBatemanの”Coast Guards: New Forces For Regional Order and Security”をまとめる予定です。自分の博士論文は当分休憩します。

 

<参考資料>

海上保安庁の一ファンであるという方が運営するブログ「蒼き清浄なる海のために」を参考にさせていただきました。「ポシ・コミテイタス法と軍隊による領域警備・法執行」 (リンク切れ)

Major Craig T. Trebilcock, U.S. Army Reserve, “The Myth of Posse Comitatus”, Journal of Homeland Security, 
October 2000    

http://aldeilis.net/english/the-myth-of-posse-comitatus/