やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

『海上保安法制』― 海洋法と国内法の交錯 (2)

『海上保安法制』― 海洋法と国内法の交錯 (2)

編集代表 山本草二 三省堂、2009年

 

 2011年2月16日のブログで紹介した『海上保安法制』の村上論文「海上保安庁法の成立と外国法制の継受」について2回に分けてメモしておきたい。

 「I.海上保安庁法の成立」に続き「II.コーストガードの成立」が要領よくまとめてある。これ以上まとめる必要なないのだが、まとめる事で自分の理解につながるので敢えてまとめさせていただきます。 

要点は下記の2点。

1.コーストガード、と一言に言っても国によって背景が違うので任務範囲は一様ではないし、コーストガードと称していなくても海上に於ける法執行権を持っている組織もある。豪州の通関国境警備局がそれだ。

2.コーストガードに代表される海上法執行機関は20世紀後半、1982年UNCLOSの採択に伴い、軍艦とは別に条約上の法執行の主体として整備されてきた。

 

<各国のコーストガードの形態>

1. 法執行権×、海難救助○

 英国沿岸警備隊(Her Majesty’s Coastguard)、カナダ沿岸警備隊(Canadian Coast Guard)

 

2. 法執行権○、海難救助○

 USCG, 海上保安庁(Japan Coast Guard)、韓国海洋警察庁(Korea Coast Guard)、インド沿岸警備隊(Indian Coast Guard)、シンガポール警察沿岸警備隊(Singapore Police Coast Guard)

 

3. 法執行権○、海難救助?

 中国公安辺防海警部隊(China Coast Guard)

 

4. 法執行権の統一的共同体(連邦交通省、連邦内務省(連邦国境警備隊)、財務省等)

 German Coast Guard

 

<コーストガードの歴史は新しい>

1915 USCG

1948 海上保安庁(2000 “Japanese Maritime Safety Agency”から”Japan Coast Guard”に変更)

1949 中国公安辺防海警部隊

1953 韓国海洋警察庁(2004英文名を”National Maritime Police Agency KOREA”から”Korea Coast Guard”に変更)

1978 インド沿岸警備隊

1993 シンガポール警察沿岸警備隊

1994 German Coast Guard(共同体として再編)

1998 フィリピン沿岸警備隊運輸通信省に移管(1967年国防省海軍の下に設置)

2000 行政院海岸巡防署(台湾)

2005 マレーシア海上執行庁

 

<法執行権の主体がwarshipからlawshipへ>

 1958年に採択された公海条約では、海賊行為の拿捕(21条)と追跡権(23条)を軍艦と「政府の公務に使用されるその他の船舶でこのための権限を与えられたもの」に権限行使主体として規定。但し海賊行為、奴隷取引を行う船舶の臨検主体としては明文に軍隊が規定されていた。(22条)

 これに対し1982年採択された国連海洋法条約では軍艦とは別に法執行機関としての船舶に権限行使主体が位置づけられる例が増加。

― 海賊船舶を拿捕する権限(105条)

― 自国法令に違反した外国船舶を追跡する権限(110条)

― 油や廃棄物の違法排出等船舶に対する物理的検査、勾留等の権限(220条)

 

 その他、Lawshipに権限を移管する例として、国際連合条約17条麻薬及び向精神薬不正取引の防止(1988)では海上での容疑船舶への乗船、捜査等の権限。 また国連公海漁業協定第21条高度回遊性魚類資源等についての保存管理措置の損酒を確保するため、他の締約国の漁船に乗船し、検査する事をlawshipに認めている。