やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

WarshipsからLawshipsへ

Batemanのコーストガード支持論 -

Coast Guards: New Forces For Regional Order and Security

 

 2003年に書かれたBatemanの”Coast Guards: New Forces For Regional Order and Security”を読んだ。この10月に立ち上がった「海洋安全保障の新秩序構築研究会」のメンバーにいないことが不思議に思えるほど、問題意識を共有している。

 以下概要をまとめる。

 

<WarshipsからLawshipsへ>

 西太平洋と東南アジア、特に島や半島が複雑に入り組んだ場所での”sensitive situation”な海域に軍人や軍艦が出て行くよりも海上保安艇や人員が出て行く事を各国は好む。

 1982年に採択されたUNCLOSで制定された200カイリの広い海域を各国がどのように管理するか。海軍にその能力はあるが、UNCLOSの目的に沿った海軍の正当化、特に”maritime policing”が必要。

 「新しい時代の古い軍隊」の選択として、さらに未来の国際社会の選択として、WarshipsからLawshipsへという道がある。

 コーストガードが必要な理由はいくつかあるが、一つには相手が軍人ではないからだ。ここでBatemanは米国のPosse Comitatus Actを引用している。

 

<日本の海上保安庁を絶賛>

 過去10年、特に1998年からコーストガードがバングラディシュ、フィリピン、べトナム、マレイシアで設立されたことを指摘。

 Batemanは日本、台湾、中国のコーストガードを紹介しているが、日本に関する記述が多い。日本の海上保安庁はパラ・ミリタリー組織として充分な機能を備えた、”excellent example”と絶賛。

 東南アジアでの実績、特に定期的なアジア海域での活動、アジアからの留学生の受け入れ、インド洋での外交的指導力の発揮など日本の海上保安庁を諸手を挙げて讃えている。

 

<地域海洋安全保障協力はコーストガードで>

 地域の海洋安全保障、BatemanはMCSBMー Maritime Confidence- and Security-Building Measure - は政治的また運用上課題の多い海軍よりもコーストガードで行うべきだ、と主張する。

 実例として、1996年米海軍とメキシコ海軍の訓練が予定されていたがメキシコから反対があり、USCGとメキシコ海軍で進めた。

 2000年には北太平洋海上保安サミットが開始された。コーストガードによる地域協力は始まったばかりではあるが、拡大しつつある。 

 なお、テロ戦争で、海軍が出動したケースがあるが、これは長い目で見れば逆効果である、と説く。

 最後に、海軍が過去の経験を参考に計画を立てるのに対し、コーストガードは未来のニーズ、特に次世代のために、健康で管理された海洋環境のニーズに応える計画を立てる、と締めくくる。

 

<コメント>

 Batemanがこのペーパーを発表したのは2003年1月。それまで内向きだった豪州ハワード政権が、アジア太平洋の安全保障に積極的に乗り出したころである。9.11の他に2002年のバリ爆破テロ事件もあった。RAMSI開始は2003年7月のことである。

 2004年の総選挙では海上保安庁設置案を持つ労働党政権に危うく政権を取らそうであった。内の従兄弟が首相になり損ねた選挙なので、忘れられません。

 このように思い出してみると、オーストラリアの非軍事的安全保障の役割を示唆したペーパーであった、とも解釈できるのではないか?

 

文献:

SAM BATEMAN,”Coast Guards: New Forces For Regional Order and Security”, The AsiaPacific Issues No. 65, January 2003  East-West Center,Hawaii