やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

キャンベル国務次官補のアイランドホッピングの成果

キャンベル国務次官補のアイランドホッピングの成果

<中国vs米国>

 「中国8vs米国50、ラグビーの試合結果ではない。ニュージーランドで開催されたPIF総会に出席した中国政府と米国政府の官僚の数である。」

 ニュージーランドの新聞コラムは、9月6-9日オークランドで開催されたPIF総会に出席した米国をはっきりと「中国への牽制」として描いている。

 今回クリントン国務長官は来なかったが、ナイズ米国務副長官、2ヶ月前にアイランドホッピングをしたキャンベル国務次官補始め、ホワイトハウス国務省、商務省、国防省、USAID, USCG,平和部隊と、過去最大の人数にして最高レベルの代表団がPIF総会に参加。

 しかし、米国代表の姿はニュースには殆ど出て来なかった。そもそもPIF総会自体がラグビーワールカップのニュースに隠れる様にして報道されていた。米国は”Low profile”で参加、と書いてあったからあまりメディアに出る事に積極的でなかったのかもしれない。

 それで、米国代表がPIF総会(正式にはPacific Islands Forum Post-Forum Dialogue)で何を約束したかというと、下記の8点である。(9月7日発表、米国国務省のウェッブより)

1.当該地域への米国のエンゲージメントを強化すること

2.気候変動への対策

3.環境問題の改善

4.爆発性戦争残存物の除去

5.海洋安全保障

6.女性のエンパワーメント

7.食の安全

8.平和部隊

 我々が関心のある「海洋安全保障」では、海賊問題、違法操業、越境犯罪といったMaritime Domainも含め強化して行く。USCGが現在6つの島嶼国と締結しているShiprider Agreementを今回の総会でさらに2カ国(ナウル、ツバル)と締結したこと。2009年から、FFA(実際は豪州王立海軍)が進めるジョイントオペレーションに過去8回、オーストラリア、ニュージーランド、フランス(クアドの枠組み)と共に参加してきたが、今後もこれら3国と、また他のパートナーと共に、新しく多角的なアプローチで臨みたい。という内容である。

<米豪同盟60周年>

 太平洋のMaritime Domainと言えばオーストラリアである。PPBPを進めてきたオーストラリアと米国がどのような協議をしているのか気になっていたが、PIF総会に続いて9月15日に米国サンフランシスコで米豪の外務・防衛閣僚協議が開催されていた。今年は米豪同盟60周年である。クリントン長官、ラッド外相(元首相)のコメントは歯切れがいよい。

(記者会見)

http://www.state.gov/secretary/rm/2011/09/172519.htm

(Joint Communique)

http://www.state.gov/r/pa/prs/ps/2011/09/172517.htm

 ジョイントコミュニケは下記の5部から構成される。

I. Shared Security Obligations

II. Regional trends in the Asia-Pacific Region

III. JOINTLY CONFRONTING GLOBAL SECURITY ISSUES

IV. STRENGTHENING ALLIANCE COOPERATION

V. AUSMIN 2012

 II. Regional trends in the Asia-Pacific Regionで取り上げられているのは、日本、韓国、北朝鮮、中国、インド、インドネシアミャンマー、そして太平洋島嶼国である。

 島嶼国支援の内容はー

 ・米豪が協力して太平洋島嶼国の建設的な役割を果たす事。

 ・民主主義の推進、経済リフォーム、環境・気候変動等も米豪が協力。

 ・漁業資源の保護に向けMCS(monitoring, control, surveillance)を強化。

 ・フィジーの問題も引き続き協力して支援。

 ・PIF, SPC等の地域機関と共に活動する。

<中国は仲間>

 本音は脅威と感じている中国に対して、上記外務・防衛閣僚協議のジョイントコミュニケには「アジアや世界での中国の新たな役割を歓迎する。協力関係を促進しましょう。」と書かれている。

 PIF総会でも中国に対して、米国のみならずオーストラリア、ニュージーランド共に、島嶼国支援をいっしょにやりましょう、仲間になりましょうと、声をかけた。

 これに対し中国は、先進国の支援と我々の支援は国の背景が違うので仲間にはなりません。とはっきり断っている。天晴!

 日本はどうか。過去の太平洋島サミットでは日豪NZの援助協調が約束されたが、現場レベルでは何も進んでいない。中国より一歩上手か。

 米豪NZ仏は太平洋を自分たちの裏庭だと思っているのだから表面では大人しくしていた方が面倒にならずによいと二千年の友好関係のある友人に耳打ちしておくべきか。

 

<ANZUSはどこへ>

 同じく、米豪の外務・防衛閣僚協議のジョイントコミュニケの冒頭には米豪安全保障同盟の基盤はANZUSである、と明記されてる。

 このANZUS、ニュージーランドが米国に対し核持ち込みを拒否したため事実上反故になっている。

 ニュージーランドは米国にノーと言える国なのである。今回の50名の米国代表団についても冷ややかな論調だ。

 「豪州は自ら米国の番犬と名乗っているので米国の太平洋島嶼国へのエンゲージメントにはhappyでしょう。米国の支援が有効かどうかわかりませんが、中国と米国が競う事で島嶼国には多くの利益がある事はよいことです。」

 米豪共に、アイルランドに惨敗しているラグビーワールドカップ。米豪がNZのオールブラックスに勝てる見込みはないだろう。

 こちらのANZUSもNZが突出。今ニュージーランドラグビーの事しか頭にありません。