やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

太平洋島サミットと日本の原発政策(2)

太平洋島サミットと日本の原発政策(2)

 問題意識が違うとこうまで同じ資料が全く違って見えるのだろうか。

 日本の放射能物質海上輸送に対するPIFの非難声明を過去のコミュニケからピックアップしていて胸が苦しくなった。

 毎年発表されるコニュニケはいつもさらっと目を通すだけで、正直何も感じなかった。しかし、笹川太平洋島嶼基金が海洋問題を扱う様になって、漁業も核実験や放射能物質海上輸送も避けて通れない。

 前回述べた通り、日本の放射能物質が再処理工場のあるイギリス、フランスから輸送され出したのが1992年。1992年のPIFコミュニケから延々2006年まで15年間、継続して放射能物質への懸念、事故の際の補償について議論されている。時に日本を名指しで、時に関係国という表現で。時に語調強く、時に絹を着せて、と年によって扱い方が違う。

 興味深いのが2000年のコミュニケだ。日本の民間セクターが放射能物質海上輸送に対して10millionUSDをPIFに拠出したことが記されている。Pacific Islands Development Cooperation Fundと言う。民間団体とは電気事業連合会のことである。支援対象は環境、エネルギー、観光。

 島嶼国が継続して主張しているのが事故があった時の損害賠償である。この基金に対して感謝はしつつも賠償問題とは切り離して考えている、と明確にコミュニケに記されている。こんなことでお茶を濁さないわよ。という感じだ。

 この基金設置に向け外務省の外郭団体国際問題研究所内にあるPECC-PIN事務局が作業をした。なぜ私が知っているのかというと当時PECCPINの主幹をされていた渡辺昭夫先生から協力を依頼されたからだ。しかし、電事連基金が用意されていることは知らなかった。東京電力から国際問題研究所に出向していた担当者といろいろ案をねってITに関する提案をしたが、徒労に終わった。事業内容と基金は事前に用意されていたのである。無駄な作業をさせられた、という不愉快な思いは今でも覚えている。

 この基金は現在でもAPIC国際協力推進協会が運用している。民間セクターの基金設置を外務省や国際問題研究所が支援する事に若干疑問がないわけでもない。ちなみに笹川太平洋島嶼基金が設置される時は、倉成元外務大臣や竹下元首相の参加は得たが、外務省は非協力的だったと当時この基金設立に尽力された財団職員から伺った事がある。勿論電事連から後押しされた様子はない。それより今問題となっている中国へ太平洋諸島の首脳を連れて行った記録がある。中国と太平洋島嶼国の関係を強化したのは「笹川太平洋島嶼基金」(!?)との見方もできる。

 日本の放射能物質海上輸送への非難は2006年のPIF総会を最後に出て来なくなる。航路を変えたのか、それともPIFが納得する回答を関係国である日本、フランス,イギリスが出したのか。

 来年の太平洋島サミットには福島にあるハワイアンリゾートのフラガール達が親善大使になることが決まった。放射能物質海上輸送時の事故の可能性を15年間も訴え続けたPIF首脳達こそ、彼女達の苦悩が分かち合えるだろう。

参考資料

 太平洋島サミットと日本の原発政策(2)参考資料1 1991-1993

 太平洋島サミットと日本の原発政策(2)参考資料2 1994-1998

 太平洋島サミットと日本の原発政策(2)参考資料3 1999-2003

 太平洋島サミットと日本の原発政策(2)参考資料4 2004-2006