やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

公海上における海上部隊によるテロ対策・海賊対策活動について ー「公海自由の原則」と安全のはざまで

公海上における海上部隊によるテロ対策・海賊対策活動について

ー「公海自由の原則」と安全のはざまで

オルグ・ヴィッチェル講演

 羽生会長からこれを読むとよくわかる、と教えていただいたペーパーである。

 2回読んで、なんとなくわかってきた。

 2009年5月15日に立命館大学法学部において開催された,ドイツ外務省法務局長・ゲオルグ・ヴィッチェル博士によるドイツ語による講演原稿の翻訳文だ。

 公海では旗国以外の船舶による捜査、事前防止的措置は設けられていない。「統一的な法的根拠は存在せず、海洋法条約一本に根拠を求めることなど尚更できないのが現状」なのだそうである。

 旗国の同意があればテロ行為の嫌疑があった場合他国の執行官が乗船できる仕組みがSUA条約である。

 ヴィッチェル氏によれば「海上の安全への要請」と「公海の自由」の緊張の中で阻止活動が行われ来たのだそうである。「公海の自由」の原則は揺るぎなさそうだ。

 さてオランダの国際法学者フーゴー・グロティウスが展開した「自由海論」はオランダ船がポルトガル船に略奪行為をしたことの正当性を説明することが目的であった、ということを最近知った。つまり公海での拿捕等自由であることを基盤としたUNCLOSはそもそも違法行為を取り締まれないのでは?と思うが素人考えか。

 神童だったグロティウスは20歳の時にオランダ船会社からの依頼で(つまりお金をもらって)この理論を構築したらしい。オランダ国内に、またその船会社の株主の中からもこの略奪行為を批判する声はあった。それでも11歳でライデン大学に入学し16歳で官職を得たグロティウスは弁護したのである。

 その背景には80年戦争と呼ばれるオランダの独立への闘いがあった事も理解する必要がありそうだ。

 どちらにしろ400年前のヨーロッパの歴史が現在の海洋法に反映していると思うと面白い。

 話しをヴィッチェル氏の講演に戻す。

 責任ある「旗国」の船舶であれば、まずは麻薬や大量破壊兵器を搭載した船舶を出港させる、ということが可能性として低いのであろうが、法と秩序が保たれていない国やPSCが機能していない国、また実際の船舶の運用者と所有者が違う便宜置船などが問題になるのではないかと思う。

 途上国であろうと主権国家に、オタクはマトモな管理ができてないので捜査しますと一方的には言えない。何ができるかというとPSC強化を国際協力で行うとか(これはUSCGがやっている)、裏技的に違法操業取締を強化する(豪州海軍がFFAと協力して実施)という方法もあるようだ。漁船は麻薬売買等他の違法行為を行っているケースがある。

 海洋安全保障の新秩序研究会、ますます難しくなってきましたが12月の研究会は盛り上がりそうです。