やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

キリバスのエクソダス

 いよいよ、キリバスのエクソダスが始まりそうだ。

 先週、キリバスのアノテ・トン大統領がフィジーの島の購入交渉をフィジー政府と進めているニュースが流れた。 

 キリバスは隣のツバルと同様にほぼ環礁だけで形成されている国で、大潮や海面上昇の影響、そして都市部への人口の増加も加わって、既に人が住める環境ではなくなっている。

 今回キリバスが購入を検討しているのは約23平方キロメートルのVanua Levuにある島。キリバスの首都タラワはこの3分の一の面積だが、現在人口約10万人の約半数がタラワに居住している。

 購入を検討しているフィジーの島は現在教会グループが所有しており、約$9.6 million(通貨は不明)。キリバスは燐鉱石の収益が海外で運用されておりお金はある。(キリバスが米国の鳥のウンチ島法から奪回した19の島の存在は大きい!) 

 キリバスからの移民は、フィジーの島で農業や牧畜を行い、生産品をキリバスに送る事を検討している。また浸食の激しい環礁に島の埋め立て用の土を運ぶ事も検討している。 

 トン大統領は、フィジーへの移民だけでなく、オーストラリア、ニュージーランド始め多くの国がキリバスの移民を受け入れてくれる事を望んでおり、国民には「難民」ではなく技術を持った「移民」としての教育が進んでいる事を述べている。

 

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 2008年、私はトン大統領とキリバスでお会いする機会があった。その時の大統領のコメントは今でも心に残っている。「海面上昇が本当か嘘か結果を待っていては手遅れである。既に高潮で被害を受けている。」 

 しかし、我々は海面上昇がホントかウソかという、実はどうでもいい議論ばかりしていて、キリバスの人々の事を全く考えて来なかったのではないか?

 昨年、ニューヨークのコロンビア大学で、海面に沈んでしまった島や、人が住めなくなった島の領有権等、法的な対処についてマーシャル諸島の政治家を呼び議論していた。このような島の領有権に関する法的保護は日本にとっても他人事ではない。

 今キリバスやツバルに積極的に手を差し伸べる事は、将来そこにある漁業資源や海底資源へのアクセスに優位な立場を得られる可能性がある。

 それから、東北のガレキ処理も喜んで引き受けてくれるかもしれない。キリバスは核実験の被害者であり、今引き受けを拒否している多くの日本人よりも原発被害には理解を示してくれるように思う。 

 トン大統領の日本への期待も大きかった。

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 キリバスのアノテ・トン大統領は極真空手の有段者。大統領が空手や宮本武蔵等の日本文化に出会ったのは、高校、大学(1967-1974)を過ごしたニュージーランドのクライストチャーチ。