3月30−31日、慶応大学メディア・コミュニケーション研究所の菅谷実教授が私が所属するオタゴ大学にいらした。数年前からご関心を持たれた太平洋の電気通信政策の調査の一環だ。
数年前、慶応大学の特別研究生として1年程お世話になった。この間、大学のセミナーと国際学会での発表も機会もいただき、多くを学ばせていただいた。
ニュージーランドの電気通信の民営化と相互接続の事を議論したビクトリア大学のGeoffrey Bertram教授の ペーパー”Unbundling the Local Loop in New Zealand: Some Economic Issues Raised by Telecom's Evidence. Report for TelstraClear, November 2003.” を後でお送りしますと約束したが、このブログに書いて皆さんとも共有したいと思う。
80年代のサッチャリズム、レーガノミクスが吹き荒れたグローバルエコノミーの中で、福祉国家であったニュージーランドは一機に国営インフラ事業を民営に切り替えた。日本からもニュージーランド詣でが続いた時期である。
1990年テレコムNZは完全に民営化。そのとたん米国のBell Atlantic and AmeritechにNZD42.5 millionNZドルで100%買収されてしまう。急遽NZ政府のKiwi Shareという制度で買い戻されるが、政策なき民営化への批判は大きい。
2005年時点で、ニュージーランドの電話通信料金はOECDの中で8番目、DACの中では2番目に高い。
競争がうまく行かない理由は山ほどあるが、相互接続の規制がないことがあげられる。この事を新規競争会社の立場から議論したのが前述のGeoffrey Bertram教授のペーパーだ。既存の電話会社が保持する電話回線に新規事業者が相互接続をする際の料金設定が高く、訴訟が続いていた。(今はどうかわからない。)
電気通信インフラ分野における”Real” で“True”な競争ってナニ? を議論している。
Geoffrey Bertram教授がカバーする範囲は広く、島嶼経済の論文は特に有名で、前から名前は存じ上げていた。太平洋島嶼国が移民、送金、援助、役人の収入で成り立っているとする「MIRAB経済」を提唱している。下記の論文参照。
*Introduction: The MiRAB Economy in the Twenty-First Century. Asia Pacific Viewpoint, 47(1):1-12, April 2006.
*The MIRAB Model. In B.V. Lal and Kate Fortune, editors, Encyclopedia of the Pacific Islands. University of Hawaii Press, 1999.
*The MIRAB Process: Earlier Analysis in Context. Pacific Viewpoint, 27(1):47-59, April 1986.
*The MIRAB Economy in South Pacific Microstates. Pacific Viewpoint, 26(3):497-519, September 1985.
ところで太平洋島嶼国は元々ユニバーサルサービスの概念がなく、独占電話会社が儲かるところだけ回線を設置していた。もしくは国際電話に異常に高い課金をして国内通話料に補助する形を取って来た。今でも通信手段がない離島が山ほどある。
競争が始まったのはカリブ海地域で成功した携帯電話会社Digicelがやってきたからだ。携帯電話なので既存の電話網への相互接続は不要。無線の鉄塔をどんどん建て、一機に島全体に電話サービスを展開した。パプアニューギニアでさえDigicelが 乗り込んで津々浦々まで携帯電話網を張り巡らした。
無線技術の向上が島嶼国の電気通信に大きく貢献している。