やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

「移動する太平洋の島の人々」(2)

(2012年1月琉球大学国際沖縄研究所のご招待で講演させていただいた内容を同研究所の許可を得て掲載させていただきます。) 「移動する太平洋の島の人々」(2) 琉球大学国際沖縄研究所:IIOS レクチャーシリーズ2011第6回 2012年1月10日(火) 18:00~19:30 (於てんぶす那覇4Fテンブスホール)

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 まず5万年前です。私たちの直接の祖先となる人類が発生したのがアフリカ大陸で約12万年前と言われています。何があったのかわかりませんが、アフリカから約6万年前に人類が出立して赤道沿いに東へ東へと移動していきます。そして5万年前にはすでに現在のパプアニューギニア、そしてオーストラリアにも移動してきたことが分かっています。5万年前アフリカから東南アジアまでは陸続きですから、テクテクと歩いてきたことは想像できますが、東南アジアからパプアニューギニアまでは広い海洋があります。5万年前の人たちが当時こういった海を渡る海洋技術があったのでしょうか。多分まだありませんでした。5万年前、地球はまだ氷河期だったのです。今よりも海面が80メートルから100メートル下がっていたそうです。

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これ(スライド4)が当時の東南アジア、パプアニューギニア、アフリカの様子です。東南アジアの島嶼はスンダ大陸と呼ばれる大陸があり、そしてパプアニューギニア、オーストラリアを結ぶところはサフル大陸と呼ばれていました。確かに海があるのですが今よりも短い距離で、多分小舟でこの島々を伝ってパプアニューギニアまで来たのではないかと考えられています。  当時の人々はどんな生活をしていたのでしょうか。まだ農業はありません。狩猟生活をしていたと考えられています。これは約5万年前に彼らが使っていた石器です(スライド5)。こういった石器を使って、木を切り、燃やして、湖を沼地に変え、住居にしていた。そういった証拠が考古学の調査で見つかっています。

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 次に確認されているのが、約3千年前の人々の移動です。3千年前はもうすでに広大な海洋がこれらの島々を隔てています。3千年前の太平洋に移動してきた人々はオーストロネシア語族と呼ばれているグループです。台湾の原住民の方たちがその起源ではないかと考えられています。彼らは高度な海洋技術を持っていました。まず台湾からフィリピンに移動し、フィリピンからパプアニューギニアの東海岸に移動し、そしてここからサモア、フィジー、トンガ、最終的には今現在のフランス領ポリネシアのマルケサス諸島を中心に、北はハワイ、それから南はニュージーランド、そして東はイースター島に約1千年前に渡りました。  すなわち6万年前にアフリカを出立した人類が約1000年前の時点でやっと全地球に到達したことになります。ニュージーランド、ハワイ、イースター島での人類の歴史は1000年しかありません。このオーストロネシア語族は、現在世界で一番多くの言葉を形成し、一番広い地域をカバーしているといわれています。西はマダガスカル島から東はイースター島まで、約1万5000キロです。地球の円周の約3分の1です。数千キロの距離をダブル双胴のカヌーで行き来していたことが分かっています。

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 こんなカヌー(スライド8)をご覧になった方もいらっしゃるかと思うのですが、カヌーが2つ。双胴カヌー、ダブルカヌーというものです。もちろん当時まだ燃料もありませんし、羅針盤もありません。人々は星を見て方向を定め、風と潮の流れで航海をしていったわけです。海図がありませんから、どこに島があるかわかりません。彼らはどうやって水平線の向こうに島があることを知ることができたのでしょうか。渡り鳥ではないかと言われています。毎年決まった時期に渡り鳥が同じ方向からやってきます。渡り鳥を見て、きっとあっちの方向に島があるだろうと想像し、新しい航路を、島を開拓していったのではないかと考えられています。  3000年前の人々の生活はどうだったのでしょうか。すでに農業が始まっています。これは土器の破片ですが、ラピタ土器といいます(スライド9)。 ところで、台湾から広い太平洋に拡散していた太平洋の人々が、この沖縄に来なかった理由はないような気がするのですが、まだそういった調査結果は出ていないようです。ただし日本語を研究している方によると、日本語自体はオーストロネシア語族ではないそうですが、海洋に関連する単語の中にオーストロネシア語に属する言葉がいくつかあるそうです。多分、オーストロネシア語族の人たちの中には日本の海岸にも到達していた人たちが結構いるのではないかと想像すると太平洋と日本がつながるので楽しくなります。