やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

何を今更の「島サミット」(3)

対太平洋島嶼国の関係とは、即ち米国との関係ナリ。

これは財団に入った1991年、現場ですぐに実感した。

特にケネディの落し子みたいなPEACESAT事業に関わると米国の太平洋への関与がまざまざと見えるのである。

1991年は冷戦が終結し、米国がサーッと太平洋から引いて行った時期である。

それで、笹川太平洋島嶼基金の第2次ガイドラインには米国との協力をしっかり入れた。

1998年の事である。

太平洋島嶼国の事をやろうと思ったら米国抜きではまともな事業はできないのだ。

だから、やっぱり「何を今更」なのだ。

米国は自国民の多大な犠牲を払って中国から日本を追い出し、太平洋の島々と海を日本から獲得したのである。本当は赤道以南の島々も管理したかったようだが、これは豪州NZが反対した。

他にもペリーが日本に来た拡張時代に「鳥のウンチ島法」で獲得した島が太平洋にたくさんある。これが米国のEEZの30%位を形成している。ハワイやグアム等を入れると51%になる。

昨年キャンベル国務次官補がアイランドホッピングをした時に各メディアから「中国への牽制では?」と今回の島サミットで日本メディアが喚いていたような質問を受け、悉く否定していた。

逆に中国と協力したい、と述べている。

しかし、これは中国が丁寧に断っている。

PACOMのウォルシュ司令官も同行したキャンベル国務次官補のアイランドホッピング

海洋安全保障に関する結論は違法操業取締強化である。

EEZの管理は資源管理しかできないので、魚か海底資源なのだ。

第一「中国への牽制」などと言ったら、島嶼国が引いてしまう。

中国は島嶼国を植民地支配した事もないし、領有権を主張したこともない。

戦地にして不発弾や沈没船を置き去りにした事もない、

何も知らない島の人をだまして核実験をした訳でもない。

多分核廃棄もプルトニウム海上輸送もしていないのではないかと思う。

島嶼国にとってはどちらが脅威か。

「中国への牽制」ー島(沖縄も含め)の立場を理解しない発言である。

ベルサイユ条約の交渉にあたった柳田国男が泣いている。

日本は100年前と外交センスが変わっていない。

「しかし結局は委任統治と言う組織が、妙な理屈倒れの人工的なものなので、そう言う結果になるものだ、と思わずにはいられなかった。2年間の経験で私に役に立ったのは、島というものの文化史上の意義が、本には書いた人が有っても、まだ常人の常識にはなり切って居ないことを、しみじみと心付いた点であった。所詮裏南洋の陸地は、寄せ集めて滋賀県ほどしか無いのに、島の数が大小三千、うち七百まではたしかに人が住んでいる。それでは巡査だけでも七百人はいるわけだと、冗談を言った委員もあったが、その島々が互いにくい違っためいめいの歴史を持って、或る程度、別々の生活をしていることまでは、陸続きで交際する大陸の連中には呑込めない。茶碗の水も池の水も、水は水だと言うような考えは、西洋で物を覚えた我邦の外交官までが皆もって居て、第一に本国の周辺に、大小数百の孤立生活体の有ることをさえ考えない。数を超越した「人」というものの発達を、せめては歴史の側からなりとも考えて見ることの出来るのが、日本の恵まれた一つの機会だったということを、気付かぬ者だけが政治をして居る。だからまだまだ我々は、公平を談ずる資格が無いと、思うようになって還ったのは御蔭である。」

柳田国男ジュネーブの思い出―初期の委任統治委員会』より

(注)1919年、柳田国男は官僚を辞め自由の身となり日本の島々を巡った。1921年、太平洋諸島巡歴を前に政府の交渉を受けてジュネーブ委任統治委員会に参加する。この結果1922年から日本が現在のミクロネシア3国を含む南洋旧ドイツ領を統治。ちょっと長いが下記に『ジュネーブの思い出―初期の委任統治委員会』から引用する。