稲村公望さんとの出会いがなかったら、島の仕事も情報通信の研究も続けていなかった、と思う。下衆の皆さんには言っておくけれど稲村さんとは親戚でも愛人でもありません。
稲村さんは奄美徳之島出身。総務省大臣官房審議官、日本郵政公社常務理事をつとめられ、郵政民営化に反対し、官僚の道をはずれ、我が道を進んだ。
『黒潮文明論』は今年4月に発行され、東京の自宅に送っていただいていたが、機会がなく、やっとこの葉月の満月の夜に手にする事ができた。なぜ稲村さんがこの本を当方に送って下さったのか、読んでみて始めたわかった。この「やしの実通信」の情報が大活躍しているのである。
こちらも親戚でも愛人でもない笹川会長からこのブログを立ち上げるように言われたのが2010年。それ以来、稲村さんから多くのコメントやご意見を頂戴していた。それがブログを継続する励みになっていた事は言うまでもない。
あとがきに「黒潮とその大自然と、その中で生きる人間が作り出す文化と伝統に味と力があることを、しかもその一端を何とか表現しようとしているだけである。学術論文でもなんでもない。誤解を避けたい。」とある。
確かに学術論文ではない。柳田國男が人々の歴史を土器やDNAの科学的研究で判断する事を拒否し、独自の民俗学を展開した姿勢と同じである。なので突き詰めれば「そうじゃないんじゃないですか?」と思う箇所もあるが、”我思う故に我在り” 即ち、”我思う故に黒潮在り”なのだから、「学術的」なんてどうでもいいのだ。
『黒潮文明論』は海洋と共に生きる島人の讃歌であり、弱者排除の市場原理を糾弾する。
最後に私が今の仕事を、ICTの研究を続ける拠り所としている稲村さんのコメントを書いておく。
インターネットも衛星も冷戦を背景に開発されたが、難聴者の発音教育者であったアレキサンダー・グラハム・ベルは後に妻となる生徒、メイベルへの愛のために電話開発に力を入れたのである。
衛星通信と私 (16)