やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

安倍首相の太平洋訪問に向けて(4)自由連合について語ろう!

<ヒーゼル神父>

ホノルル出張では大きなボーナスがあった。

今はニューヨークに滞在するイエズス会のヒーゼル神父が偶々ホノルルを訪問されていたのである。

ヒーゼル神父は50年以上ミクロネシアの教育、社会問題に身を捧げてきた。

会話のテーマは広かったが、一つは自由連合協定の事である。

「リエコ僕は誤解していた。自由連合とは外交と安全保障に関与する、という事ではないんだね。」

50年の経歴のある神父様の修正は重い。もうこの言葉を聞いただけで神に感謝した。

<またまた自由連合

このブログでも何度も取り上げている自由連合協定。戦後、国連が合意した脱植民地化の3つの選択の一つ。1)独立国になるか、2)どこかの国に統合されるか(旧宗主国である必要はない。)3)もしくはどこかの国と自由連合を締結するか。

自由連合とは外交と安全保障に関与する事が前提ではない。目的は脱植民地。民族自決

自由連合という政治形態を国連に提案したニュージーランド政府は現在クック諸島、ニウエと自由連合を締結しているが、外交、安全保障その他、依頼があれば支援する、という程度。

ところが冷戦時代、ソ連と米国を挟む太平洋に位置するミクロネシアが米国と制定した自由連合協定は、はっきり言えば米国の安全保障を守るための連合。これと引き換えにコンパクト・マネー(協定援助金)がセットされている。

<残された期限は9年>

RMIとFSMのコンパクト・マネーが切れるのが9年後の2023年。自由連合はどちらかが止めると言うまでは継続。しかしコンパクト・マネーは切れるんだそうである。その日のために信託基金を設置したのがどうもうまく行っていないらしい。

やっぱり独立国家としてやっていけません。どこかの国に統合されます。というのも一つの選択肢。もしくはインターネット整備をしてオフショア金融や、カジノ経営で国家運営を、という手もある。

ここ数年議論されてきたのが、違法操業で巨大な損失をしている漁業資源の管理運営の改善。

上記の3つの選択肢、どれにしろどこかの大国か、巨大国際企業、ビリオネラー、もしくは怪しいシンジケートの支援がなければでない話だ。

<戦略的太平洋支援を>

安倍総理の太平洋訪問。日本の新たな戦略的太平洋への関与を示す機会ではないか。

それは現在のステータスクオ、即ち米豪(NZ仏も)を中心とした太平洋の安全保障経済体制を支援し強化するものでなければならない。

特に日本との関係が深いミクロネシア地域においては米国が築いてきた体制を支援し(悪いところは改善し、良いところは伸ばす)、日米同盟の強化につなげることが肝心だ。ミクロネシア海域は日本の海洋安全保障にも一致する。

ミクロネシア諸国にとっても民族自決の維持と福祉の向上に自由連合の枠組みは外せない。

ミクロネシア3国と米国の自由連合はコンパクト・マネーの他に航空協定、通信協定、海洋環境管理、移民等々、ミクロネシアと米国の社会システムを切っても切り離せない状況にしている。この中で日本がどこを肩代わりできるか、もしくは共同で支援すべきか、戦略的支援を検討する機会である。

<米国も期待>

ヒーゼル神父からフォローのメールが来た。

「日本がミクロネシアと米国の自由連合をテーブルに上げることは非常に意味があると思う。」

米国内にはミクロネシア、西太平洋軽視の大きな勢力があるようだ。ホノルル出張ではヒーゼル神父だけでなく、何人かの米国政策関係者から日本の関与を期待する声をいただいている。