やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

太平洋島嶼国の人口問題(2)人口成長率

前回は、太平洋島嶼国と一言で言ってもその人口配分はメラネシア4国(パプアニューギニア、フィジー、ソロモン諸島、バヌアツ)に大きく偏っており94%を占める事を指摘した。

yashinominews.hatenablog.com

人口成長率はどうか? データは前回同様SPCのものである。 http://www.spc.int/nmdi/population

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クック諸島が3%と一番大きいのだが、その後はやはりメラネシア諸国のパプアニューギニア、ソロモン諸島、バヌアツ、そしてキリバスと続く。 同じメラネシアのフィジーが少ないのは人口移動が近隣諸国(主に豪NZ)にされているからではないかと想像する。

この問題を指摘したのは、ヒーゼル神父で2012年に下記のペーパーを出している。

Hezel, F, X. 2012. Pacific Island Nations How Viable Are Their Economies? Honolulu: Pacific Islands Policy 7, East-West Centre.

ヒーゼル神父の調査では、2000−2009年と1990−2009年の人口成長率の数字をはじき出し、上記のデータを同じくパプアニューギニア、ソロモン諸島、バヌアツ、キリバスの人口成長率が高い事を指摘している。Hezal神父上記のペーパーより。

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この4カ国の共通点は何か? 移動先がない事である。

ミクロネシアはご存知の通り自由連合協定を締結する米国に多くのディアスポラが存在する。 ポリネシア諸国はニュージーランド、豪州に多く移民している。こちらも政府の移民制度がある。 どれだけのポリネシア諸国の人々がニュージーランドに住んでいるのか? 下記はニュージーランド政府の資料から。 ニュージーランドと母国に住んでいる太平洋島嶼国の人口の比較である。 http://www.stats.govt.nz/browse_for_stats/people_and_communities/pacific_peoples/pacific-progress-demography/population-growth.aspx

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2006年の資料で少々古いが、サモアはほぼ同数、クック諸島は母国より3倍の人口がニュージーランドに住んでいる。 トンガは3人に一人がニュージーランドに。人口1000人のニウエは10倍の人口がニュージーランドに。 これはニュージーランドだけ。

豪州、米国などへのポリネシア諸国の移民の数字を出せば、もっと大きな比率が海外に居住している事がわかるであろう。 ミクロネシアはこのような統計がなく(当方が知らないだけであるかもしれないが)下記は当方と助成先のミクロネシアセミナー、Jason Aubuchon氏(当時)が ”Web Education Materials for the Micronesian Diaspora" と言うテーマで2006年に、The 4th annual Hawaii International Conference on Educationで発表した内容だ。

 

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ミクロネシア連邦も本来であれば、メラネシア並の2%の成長率のはずである。 しかし、ヒーゼル神父のデータではミクロネシア連邦の人口成長率は0.3から0.4。一番上のSPCのデータでは -0.4%と人口成長立が減少している。 それだけFSMからの人口流出が大きいということだ。

なぜか?

FSM国内の社会問題が大きいという事なのかもしれない。職がない、学校に行けない等々。 これがわかると現在グアム、ハワイで問題視されているミクロネシア連邦、特にチュック州出身の移民問題が見えてくる。 母国の島社会の開発がうまく進んでいないミクロネシア連邦の押し出すような流れと、ニュージーランド政府が主にポリネシア諸国に制度としてとっている計画的な移民制度の比較は、人口規模も人口成長率も大きいメラネシア諸国の支援政策にヒントを与えてくれるのではないか。