やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

トニーとシンゾー 新たな日豪関係に向けて

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日本と太平洋島嶼国の関係は、即ち日豪関係なり。

 

アボット首相の来日はその意味でも興味あるものだった。

”シンゾー” ”トニー”、と呼び合う二人の首相の姿は観ているこちらが恥ずかしくなるほど。

メディアをにぎわす牛と鯨の背景で、防衛、安全保障に関する協議が大きく前進したようである。

潜水艦始め、船舶の共同開発を進めるようだ。

 

豪州の防衛、安全保障と言えば、インド太平洋の海洋安全保障である。

南極方面にはペンギンと海豹、それから日本の調査船位しか脅威は存在しない。

 

他方、豪州の頭上の広大な太平洋は14の島嶼国・地域によって形成されるEEZで覆われている。

ここで、難民問題、密輸、麻薬、人身売買、マネーロンダリング、違法移民、違法操業等々あらゆる越境犯罪と、中国の海洋進出が展開されている。これらの活動は小さな島々(そしてその主権)を拠点として利用しているのだ。

問題は、これら小島国には国際犯罪を取りしまるキャパはないし、大国の軍事力や経済支援を牽制する程の国力はない。

その観点からも日豪の海洋安全保障協力は、太平洋島嶼国の(広義の)海洋安全保障に重要な意味を持つ。

 

<太平洋は無法地帯>

地球の3分の一の表面積を閉める太平洋。

冷戦時代は、沖合に米国の軍艦がプカプカ浮いていたそうである。良くも悪くも冷戦構造が太平洋の海洋安全保障を管理していた。

冷戦終結後、米軍はサーッと引き上げてしまった。そしてこの太平洋を唯一人守ってきたのは豪州海軍である。このブログで何度も紹介しているPacific Patrol Boat Programだ。

しかし、この監視艇、2008年までは年間36日しか稼働していなかった。平均月3日。2011年には年間66日に改善。それでも月平均5.5日。

豪州一人でこの広大な太平洋を監視、管理する事はできない、とやっと気がついた。(力も金もない)頼るべき同盟国米国は「南太平洋?そんなものわからん。わかる気もない。」と言っている。

頼るべきは中国か?日本か? 豪州はこんな記事を書いて確認する必要があるのだ。

Australia-Japan defence agreement: Normal, not extraordinary

http://www.lowyinterpreter.org/post/2014/04/07/Australia-Japan-defence-agreement-Normal-not-extraordinary.aspx

 

<伝統的脅威は日本>

日露戦争以来、豪州にとっての脅威は日本なのだ。

第二次世界大戦では日本の潜水艦がシドニー湾を攻撃している。

第一次世界大戦では、前にも書いたが、豪州を守りにきた日本の軍艦に発砲している。

南極に来る調査船もやっと排除した。

笹川平和財団がミクロネシアに小さな船を供与する事すら脅威なのだ。

そこには豪州外務省と国防相の温度差もあるようだ。

「日本に太平洋の海洋安全保障参加を認めるんですか?」(国防省)

「我々は日本にもっと出て来て欲しいと要請している。」(外務省)

これはキャンベラで当方の目の前で交わされた豪州国防省と外務省の会話。

 

<Royal Australian Navyの弱点>

米国は法執行機関の沿岸警備隊があるが、豪州にはない。よって業務上海軍とのコミュニケーションが多くなる。結論。やっぱりこんな海軍に太平洋を任せておけない、と素人心にも思う。(この感想は、米国、豪州政府も共有していると確信する。)

しかも豪州海軍、人員は減り続けている。今11,000人しかいない。鉱山ブームもあって若い人材がより着かない。こんな涙ぐましい努力までしてリクルートしている。

「王立豪州海軍は美人に弱い」

その他、豪州海軍の評判は色々あるが、このブログには書けない(書きたくない)。ニュースにはなっている。短絡的に言えば、自分たちのミエ、存在感だけで、太平洋を守ろう、なんて意識は(金も力も知恵も)ない、というのが7年の現場経験からの当方の結論である。

 

日本の巨大官僚組織、批判も多いようだが、豪州の様子を見ると日本は恵まれている、とつくづく思う。トニーもきっとこんな軍隊が欲しい、と心中で思ったに違いない。

 

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追記

日豪首脳会談に関する共同プレス発表(4月7日)

http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000034802.pdf

下記の項目が興味深い。

13. アボット首相は,第一次世界大戦中,豪州・NZ 軍(ANZAC 軍)を輸送する最初の船団が日本海 軍巡洋戦艦「伊吹」による護衛の下,アルバニー港を出航して100周年であることを記念する,2 014年後半に実施予定の「アルバニー船団記念式典」への海上自衛隊艦艇派遣に係る日本の 意欲を歓迎した。