やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

『昭和の精神史』竹山道雄著作集1福武書店昭和58年

  

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竹山道雄とBert Röling

 

FBFの方から教えていただいた竹山道雄の『昭和の精神史』

ここに平泉澄の皇国史観を批判的且つ戦後の平泉の一貫した態度を評価している事が書かれている、ということであったので手にしたがその事は書いておらず、戦争になった背景と、竹山と東京裁判のレーリング判事の交流が書かれていた。

前回読んだ伊藤隆著『近衛新体制』同様複雑な内容で理解しきれない、がこれも印象に残った部分だけメモしておきたい。

 

<天皇によって「天皇制」を仆す>

血盟団事件、2.26。。 青年将校がやろうとしたのは天皇によって天皇制を仆すことであった。

竹山は前者を統帥権的性格とし、後者を機関説的性格として、天皇の二重性を指摘する。

青年将校が倒したかったのが機関説的性格の天皇制に存在した元老・重臣・政党・財閥・官僚・軍閥であるという。しかし、古代の刀を吊るした青年将校は処罰され、財閥、軍閥は強化される。ここら辺が複雑で今ひとつ理解できていない。が、なんとなく、わかる。

 

<主観をもった主体>

竹山は青年将校の心の動きを、人間の主観と社会科学で議論しようとしている、のだと思う。

演繹と帰納の議論ではなかろうか?

ともあれ竹山は『大隈伯昔日譚』を引いてきて、維新がある抗しがたい時代思潮の力であったこと。維新改革の原動力が九州の端から奥羽の辺に至る天下各地の青年書生の頭脳に煥発し、時勢に養われた事を紹介。竹山は歴史認識に人間の心、主体性が重要だと説く。

近衛上奏文にあったコミンテルンの仕業、のような議論も否定している。

 

<軍人の団体精神>

そこで、軍人の心の動きに話が展開。

国体の本義を、不満を抱える青年将校が手中に納め、天皇機関説を退ける事によって伊藤隆氏のいう「復古革新」が可能になる。「神懸かりの古代の言葉」で軍人は天皇を崇拝した。

竹山はルネサンスが古代ギリシアを、フランス革命がローマ風を模した事を引用し、「自分の表現様式をもっていない動向は、みずからに形をあたえようと」すると解説する。(96頁)

名前は出て来ないがここら辺が平泉澄と関連して来るのだろう。

 

<ローリング判事と竹山>

NHKで東京裁判のドラマをやっていた。ここで東京裁判の判事であったオランダのローリングと竹山の交流が描かれていたが、この『昭和の精神史』には本人の記述で、ドラマよりも詳細な、生々しい二人のやり取りが書かれている。

ローリング判事の意見書には竹山の言葉がそのまま引用されている、という。(123頁)

東京裁判を日本人は傍観していた訳ではないのだ。

 

 

戦後70年。スケープゴート探しはまだ続いているように思う。

コミンテルンの仕業、皇国史観の仕業、と片付けるとスッキリするが、そこで見失われるのは時勢の民衆や事件に関与した複雑な人間の心境であろうことを、此の本から学んだ。