はやり、1冊分のホロコースト関連資料を読むのは精神的に良くないような気がする。
以前ハンナ・アーレントの映画を観た後も、しばらく重い気持ちが続いていた。
ナチスの「人種衛生学」という文字を見て気になったのが後藤新平の「国家衛生思想」。
後藤の方は全く中身を知らないが、もしやどこかでつながっているのでは?と不安になってダメもとでウェッブサーフィンしたら、かなり上質な学術ペーパーに巡り会えた。
「上質な学術」と私が判断するのは、先行研究をきちんと整理し、後藤新平のオリジナル記述と、後藤が参考にしたであろう各論文、資料を確認しているからだ。著者は岡山大学姜克實教授。
a. 日本における社会政策の準備 一後藤新平の思想と活動を中心に
岡山大学文学部紀要 (52), 67-86, 2009-12
http://www.cc.okayama-u.ac.jp/~jiang/pdf/goto3.pdf
b. 後藤新平の国家衛生思想. ~初期の思想と著書をめぐって
岡山大学文学部紀要 (50) 59-77 2009年1月
http://www.cc.okayama-u.ac.jp/~jiang/pdf/goto1.pdf
c. 後藤新平の国家衛生思想 ー初期の思想と著書をめぐって(2)
岡山大学文学部紀要』51/2009.7/pp89-108
http://www.cc.okayama-u.ac.jp/~jiang/pdf/goto2.pdf
後藤は留学先のドイツで社会政策を、イギリスの救貧・公衆衛生制度を学んだ。(上記の資料a p.84)
具体的には唯物論科学者ルイス・パッペンハイム(1818-1875)と観念論政治学者ローレンツ・フォン・シュタイン(1815-1890)である。(資料b p. 61)
パッペンハイムが衛生行政論の動機を重視したのに対し、後藤は結果・目的を重視した。
それは「人類の生活目標に関する「福祉」、「福寿」、「最大幸福や、また「社会健全生活」「公衆の健康福寿」など、あらゆる欲望、幸福実現の意味」として拡大解釈した理論となった。(b. p. 73)
ここはシュタインの国家有機体説の批判的導入があった。生物学的社会進化論だけであれば「適者生存、優勝劣敗」「弱肉強食」という加藤弘之流の理論に陥るのを、シュタインを応用する事で倫理・道徳の防御線を築いた。(c. p. 105)
即ち、後藤の国家衛生論は、生物学を応用しつつも、ナチスのような倒錯に勿論行かず、弱者や貧者救済に重点を置いたものであったのだ。
ホッ!