やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

「主権の概念について」関根萬之助 読書メモ

「主権」という言葉をSNSでなんとなく使って、その意味を、定義を自分が知らない事を改めて認識し反省。ウェブサーフィンで見つけたのが下記の論文である。難しいが非常に面白かった。

関根萬之助 「主権の概念について」 明治大学短期大学紀要17巻 20-Mar-1973

http://hdl.handle.net/10291/10801

 

関根萬之助氏が何者か、下記の資料からしかわからない。同志社の図書館で検索しても何も出てこない。戦後の明治大学法学部で助教授のポジションにあった方だ。

法学部の歴史- 明治大学 吉田善明1993

https://m-repo.lib.meiji.ac.jp/dspace/bitstream/10291/15746/1/shisakunoumi_1993_227.pdf

 

複雑な議論の中で3点だけメモしておきたい。

まず、大内兵衛氏のコメントを引用し、戦前の天皇機関説を巡る美濃部博士を当時の東大出法学研究者は誰も擁護せず、自分の身を守ったと批判。「日本の法学は人物の養成においてこの程度のことしか成し得なかったのである、と同時にそういう学問ならばいっそない方がよいのではないか」と。これは大内氏のコメントであろう。

法学論文らしからぬ出だしにまずは心を惹かれた。

 

次に後藤新平の植民論を戦争中に出版した中村哲氏が出てくるのだがここは省略して、尾高朝雄と宮沢俊義の「ノモス主権論」も出てくる。関根氏は両者を否定するがこの議論も難しいのでメモはしないが、両者の主権概念(君主主権、国民主権、国家主権)の実態の混乱を指摘している。

その「主権」という日本語が西欧語のSovereignty, Souveranitat, Souverainete を訳したため、権利の概念と紛らわしくなった、とある。もともと治者の権力が最高絶対である特性(ty, tat, te )を表す言葉であり、主権に関する誤解の主な原因がある、と。

 

最後の天皇制に関する議論が最も興味深い。

牧健二氏を引用し欧州近代で発達した主権概念をそのまま天皇に用いることは著しい誤謬を犯す、と。以下引用「日本は王者政治の国家として、世界独特の天皇政治を具現する。我が日本国には自ら国体から生まれる政体がある。我が民族の胸には敷島の大和の奥ゆかしい心が蔵めらてあり、その懐く、平和の信念は青雲の霞く極み明朗であり、底つ磐音の堅い極み不動である。」この後に続く「象徴」の議論も面白いのだがここは省略。

 

「主権」他にも論文を読んでみたい。結構面白い、帝国主義にも関連する議論かもしれない。