やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

中型監視艇KEDAMパラオに到着

f:id:yashinominews:20210415172126j:plain

パラオに到着したKEDAM

 

日本財団が支援するミクロネシア海上保安事業の一環でKedamというパラオの軍艦鳥の名前がつけられた監視艇がパラオに到着した。

この中型船の支援の背景には水産庁と国交省庁間の軋轢があり、その原因を作ったのが私なのである。

 

ミクロネシア海上保安事業は2008年、笹川会長の正論*での提言をきっかけに開始。国交省審議官だった羽生次郎氏のアイデアでミクロネシア地域の海保案件として立ち上げた。立ち上げに際しこのお二人から求められて情報、意見を提供したのが当方である。加えてミクロネシア3国大統領の合意案件となるよう関係国にロビーイングして2008年11月に正式にキックオフさせたのも当方である。ミクロネシアの地域協力の枠組みを基金の第二次ガイドラインに盛り込み10年以上支援してきたバックグラウンドがある。

 

*【正論】日本財団会長・笹川陽平 太平洋島嶼国との共同体を

2008/05/06 産経新聞

http://blog.canpan.info/sasakawa/archive/1358

 

 

ミクロネシア海保事業の具体的支援内容は2008年11月以降に協議された。

羽生さんは走りながら考えようという姿勢だった。それはいい方法だと思った。元官僚らしからぬ言動で頼もしく見えた。

他方、羽生氏が日本財団の船の予算が余っているのでそれを使いたいと何度も述べられているのを聞いていた。予算が余っているから船を作るのか?船が必要だから作るのか?ここら辺はよくわからない。ここら辺は私には理解できない官僚らしい「忖度」の範囲なのかもしれない。

 

西太平洋地域をよく知る米国沿岸警備隊や豪州海軍は島嶼国に船をあげても管理運営できない、と反対意見を述べていたのだ。そんな中での小型監視艇の供与が進められた。長期の管理・運営も含め日本財団が支援する形としたのだ。

 

他方、小型監視船がカバーできない遠洋の監視を、日本の水産庁の監視艇が行う動きがあり、当時水産庁次長だった宮原さんから当方に協力依頼があり、一肌脱いだ。宮原さんも官僚らしからぬ人物で先例にこだわらない。彼に頼られて断るのは男が、イヤ女がすたると思ったものだ。

結果、現在500トン近い大型監視艇が年間数ヶ月パラオのEEZを監視する事になった。

 

しかしこれに激怒したのが元国交省審議官で元笹川平和財団会長の羽生次郎さんだ。

私はてっきりオールジャパンで守る世界の海を具現化したので褒められると思ってご報告したのだが、(水産庁からの協力依頼は日本財団海野常務含め当初より詳細にご報告していた)どうも国交省だけの、もしくは財団だけの案件にしたかったようである。海洋基本計画にも毎回うたわれている省庁間の連携・協力は程遠い事を目の当たりにする貴重な経験であった。

 

それだけではない。このことがきっかけで今回供与された中型監視艇の造船を羽生氏がかなり強く推し進めた様子をパラオの関係者から聞いて驚いた。

「今もらっている小型船だって繋留されたままで使われてないんだから、そんな大きな船はいらないとみんな言っているのに、押し付けられたんだよ。」

パラオ人独特のブラックジョークと受け止めた。

「ごめんなさい。きっかけ作ったの私だと思います。」

 

 

世界に冠たる日本の国交省と海保が、現場の事情を十分認識した上での監視艇の供与であるはずなので、勿論供与された監視艇が繋留されたままであるはずはない。

他方、水産庁の監視艇も来年度予算で数十億の増額と新たに2隻造船される様子だ。

海洋基本計画で何度も繰り返される「関係省庁の連携・協力」は官僚任せではなく、政治主導で進めるしかないのではないか。