やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

インド太平洋構想ーハウスホーファーの太平洋地政学

いよいよ、本陣のカール・ハウスホーファー著「太平洋地政学」を手に取った。安倍総理の「インド太平洋戦略」を太平洋島嶼国からの視点で確認する智の旅だ。

なお、一般には「インド太平洋戦略」になっているが、「戦略」strategy という言葉がどうもしっくりこないのでこのブログでは「構想」のままにしておきたい。

 

ハウスホーファーの「太平洋地政学」は1941年のパールハーバー直前に太平洋協会から和訳が出ている。原典は1924年に出版されているので、この和訳が戦争を意識してであることは明確だ。

500ページの同署は難解である。訳も、漢字も、分かりづらい。当時も同じような声があったようで、翻訳者の佐藤壮一郎氏が「ハウスホーファーの太平洋地政学解説」という本を同じ太平洋協会から1943年の夏に出している。こちらは200ページ弱で内容もわかりやすい。先にこちらを読んだ。

1943年は日本軍がガダルカナルから撤退を開始し、ドイツ軍がソ連に敗れた年だ。

 

なお「太平洋地政学」も「ハウスホーファーの太平洋地政学解説」も国会図書館のデジタルライブラリーでアクセスできる。

 

 

要点だけまとめてみる。

・ハウスホーファーはドイツが太平洋の領土を失ったことを、多くのページで嘆いている。

・しかし、その原因となった日本軍は恨んでおらず、日本への憧憬の念は日本人さえ驚くほど。日本人を独露に対抗させたのは、独露に問題がある、とまで書いている。

・そして「南進論」はやはり日本人のマラヨ・ポリネシア(現在ではオーストロネシア語族という)に属し、海洋民族である、という理論を基盤にしている。

・満州など日本が北進したのはただ、ロシアと中国に対処するためであったので、ロシアが態度を変えれば良い、と。

・日本人マラヨ・ポリネシア説はなんとフンボルトが最初に唱えたようだ。ベルツもこの説を支持している。

・日本人とドイツ人の共通性を訴え、日本人が南洋を支配し、ドイツがそれを支持することを唱えている。

・民族自決権を支持している。また日本の植民政策を英国のそれと比べ、植民地の先住民の人口が増加している例を出して、ここでも日本を支持。(植民政策に関しては後藤に日本滞在中会っているので、スイスの新渡戸に会って話を聞いていた可能性は大きいように思う)

・アングロサクソン(英米)を至るところで批判している。(北部ドイツ人はサクソンではないのか?)

・ソ連の共産主義は否定。(ここはゾルゲと違う)

 

 

翻訳者の佐藤壮一郎氏は前書きで自分は専門家ではない、と書いているが時代背景など良く知っているように思った。一体誰なのだろう?ウェブ検索したが出てこない。

これを読むとハウスホーファーは(多分ゾルゲも)ソ連と日本が協力する可能性を信じており、そのために日本に南進を薦めていたのでは?と思えるのだが、ここら辺のことは何も知らないので専門家が何か書いていないか探してみたい。

 

追記:ゾルゲとハウスホーファーの母国を救いたいという「良心」がそれぞれスターリンとヒトラーの悪魔的な思考に利用されてしまったのでは?日ソ、日独協力は後藤や新渡戸が考えていなかっただろうか?とこれも勝手な想像。